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皆さま、こんにちは。

今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第8弾をお届けします。

テーマは「秋」。食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋といろいろありますが、すべてを満たすのが「読書の秋」かもしれません。ですので、どんな本もこの季節の心地よさのなかで存分に味わっていただきたいのですが、あえて「秋」をテーマにブックトークを試みます!

今回もブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。

第8弾「読んでミール?」の始まり、はじまり。

 

Book Talker Naomi***

 

①  新美南吉 著

『ごん狐』(1932年発表)  新美南吉童話集(大日本図書)他多数

教科書にも載っている日本人なら一度は読んだ事のある「ごん狐」。
秋の彼岸花を見るたびに、赤い布のように咲き続いた彼岸花の中を白いかみしもつけた兵十がおっかあの位牌を抱いてしょんぼり歩いている姿が目に浮かびます。
お店に栗や松茸を見かけるようになると兵十の為に家の戸口にそっと置いて行くごんを思います。
私が通う朗読教室でも何度も扱った作品で、そのたびに泣かないように読むのに苦労した作品でもあります。
でも最近、実はラストは悲しいだけの場面では無いと思うようになりました。
ごんはひとりぼっちで寂しく、同じようにひとりになった兵十に自分を重ね合わせます。でも自分がせっかく持っていった栗や松茸が神様のおかげにされている事につまらなく思っていたので、最後の最後で兵十に分かってもらえた事で一瞬でも幸せを感じたのではないかと思います。…いやそう思いたいです。

 

② レオ・バスカーリア 著
『葉っぱのフレディ いのちの旅』絵本(1998) 童話屋

この本はアメリカの著名な哲学者レオ・バスカーリア博士が書いた生涯唯一の絵本です。
葉っぱのフレディの目を通して葉っぱの一生=自然の営みが描かれています。
それは人間の一生にも通じるものがあり、子供たちが死というものを考えたり、人生を考えるきっかけになるような本だと思います。
始めは文章だけの物を読んで心が震えたのですが…今回絵本を取り寄せてみて、素敵な写真と移り変わっていくフレディの姿のイラストに、より一層の感動をおぼえました。ぜひ絵や写真も一緒に楽しんでいただければと思います。
尚、この本は四季を通して描かれていますが…葉っぱが劇的に変化する秋のイメージが強くて「秋」の本に選びました。

 

③上橋菜穂子 著
守り人シリーズ (12冊)
精霊の守り人
闇の守り人
夢の守り人
虚空の旅人
神の守り人(上・下)
蒼路の旅人
天と地の守り人(全三部)
流れ行く者(短編集)
炎路を行く者(番外編)

上橋菜穂子はこのシリーズで2014年に国際アンデルセン賞を受賞した他、バチェルダー賞、野間児童文芸新人賞、路傍の石文学賞、巌谷小波文芸賞など数々の賞を受賞しています。

これはファンタジーと分類される架空の世界のお話で、想像上の国や人々、それに異界の魔物や精霊までも出てくる物語です。
主人公はバルサと呼ばれる凄腕の女用心棒です。年齢は主役としては珍しい30代と中年に差しかかる年齢ですが、これまでの危険と隣り合わせの生活から沈着冷静に状況を見極め対処し、沢山の男を相手でも決して負ける事なく、頼まれた人を、命をかけて守りぬく…本当に憧れるほどにクールで格好良い女性です。
ある時、命を狙われた新ヨゴ皇国の幼い皇子チャグムの用心棒を頼まれ、守りながら隠れて暮していく中で、バルサとチャグムは少しずつ心を通わせ信頼関係を築いていきます。それはチャグムが王宮に戻った後も続き、チャグムに危機が迫ると、バルサはどんな所にいても必ず助けにやって来てくれるスーパー頼りになる用心棒であり続けます。
この全12冊には幼いチャグムが成長して国王になるまでの十数年が描かれ、新ヨゴ皇国内の陰謀や近隣諸国との軋轢、そして巨大な国からの侵略の脅威とそれに対する抗戦、さらに異界の魔物や精霊たちが絡みあいハラハラ・ワクワク・ドキドキが一杯つまっています。
そんな大変な状況の中で、バルサが唯一ほっと出来る場所が、薬草で怪我や病気の治療をしてくれるタンダという男性の所です。そして彼の作るキノコたっぷりの山菜鍋はバルサ最大の癒しです。

このキノコたっぷり山菜鍋のイメージから、私はこの作品を「秋」の本に選んでみました。
上橋菜穂子さんの沢山の作品の中には美味しそうな食べ物が色々出てきます。
そもそも架空の世界の話なので食べ物も架空の物が多いのですが、食べてみたいという読者が多かった為か、その料理本も出版されています!ページをめくると美味しそうなメニューがずらり。もちろん「タンダの山菜鍋」も入っていますので、秋の夜長に守り人シリーズを読みながら「山菜鍋」を食べるのはいかがでしょうか?

[参考文献]
上橋菜穂子・チーム北海道 著
「バルサの食卓」料理本(2009) 新潮社

 

 

Book Talker  Chie***

 

1 八木重吉 作

『秋の瞳』(1925年発表)『貧しき信徒』(1928年発表)ほか

夭折の詩人、八木重吉(1898-1927)の詩は、静かで清らかでありながら、時に、生きていることの喜びが弾けるような、世界を鮮やかに浮き立たせるような力を感じます。やさしい言葉で簡素に、でも丁寧に。

たとえば、『貧しき信徒』の一編、「素朴な琴」。この詩が一番好きというファンが多いのではないでしょうか。

 

素朴な琴

 

この明るさのなかへ

ひとつの素朴な琴をおけば

秋の美しさに耐えかね

琴はしずかに鳴りいだすだろう

 

秋の美しさに耐えかねて鳴り出すのは詩人のこころ、詩心そのものでしょうか。詩人でなくともこころを澄ませて秋の景色に身を浸したときに、ふるえるように、内なる「素朴な琴」が鳴りだす瞬間が、誰にも私にもある気がします。

刊行された二つの詩集『秋の瞳』『貧しき信徒』(後者は重吉没後に刊行)を中心に、重吉の作品はさまざまな本で目にすることができますが、インターネットの電子図書館「青空文庫」もおすすめです。https://www.aozora.gr.jp

青空文庫は著作権の消滅した作品と「自由に読んでもらってかまわない」とされたものをボランティアの力によってテキストを打ち込み、校正、ファイル作成などをして電子図書館にしているものです。

話を重吉に戻しますね。重吉の詩作は5年という短い期間でしたが、今もこうして生きている詩の世界の不思議を感じます。生前に自ら編んだ『秋の瞳』の序はこんなふうに始まります。

私は、友が無くては、耐へられぬのです。しかし、私には、ありません。この貧しい詩を、これを、読んでくださる方の胸へ捧げます。そして、私を、あなたの友にしてください。

詩を受け取って、友となる。時空を超えて素敵ですね。季節では「秋」をもっとも好んだといわれる重吉の詩をもう一つだけご紹介します。

 

果物

 

秋になると

果物はなにもかも忘れてしまって

うっとりと実(み)のってゆくらしい

 

2 リチャード・マシスン 著

『ある日どこかで』(2002)創元推理文庫

うっとりと広がる空想に身をゆだねる・・・それは秋の夜長の醍醐味ではないでしょうか。『ある日どこかで』という作品との出会いは、私の場合、映画が始まりでした。映画を観たのは1980年頃ですから、もう40年も前の話です。高校の制服を着たまま入る映画館というドキドキとあいまって、この映画を観たときのうっとり感は今も忘れられません。当時は小品扱いで、同じ映画を観た!という人と共感する幸運に恵まれることなく、一人サントラ盤を探し、美しい音楽にもうっとりしていました。その後、インターネットが普及してこの懐かしい映画を検索して驚きました。いつのまにか希代のロマンチックファンタジー映画として再評価する動きが世界中で広まっていたのです。

肝心の本の話をしなくてはいけません。著者のリチャード・マシスンは『激突!』というあの怖い映画の原作でも有名で、ジャンルに縛られずに作品を世に送り出してきた人物。『ある日どこかで』は、美しい女優の昔のポートレートを見た男性がこころをひかれて時間旅行を試みて女優に会い、やがて・・・というお話。世界幻想文学大賞受賞作ながら、邦訳が出るまでに四半世紀を要したというファンが待ちわびた作といわれています。作品の冒頭は「1971年11月14日」とブログ(日記)風に始まり、主人公の男性が75年の歳月を隔てて恋に落ち、愛を育んだ秋の日々の物語ともいえる作品です。

ちなみに映画の主演は、スーパーマンで有名なクリストファー・リーブ、そしてあまりにも美しいジェーン・シーモア。二人が醸し出す知性と瑞々しさにもうっとりします(あっ!また映画の話に戻ってしまいました・・笑)

 

トーベ・ヤンソン著

『ムーミン谷の十一月』(1980)講談社文庫ほか

ムーミン好きの大人はもちろん、ムーミンの世界の扉をまだ開けたことのない人にもぜひ読んでいただきたいムーミンの小説。この作品は一連のムーミン小説の最後で、寒さや寂しさを感じる秋のムーミン谷(ムーミン一家や仲間たちが住んでいるところ)が舞台です。11月という名前が入っている小説というのも珍しいので選んでみましたが、でもチョイスの本当の理由は、私もこの時期に読み返したくなったから・・。

ムーミンの小説世界なのに、なんと、この本には主人公であるムーミン・トロール(皆さんがご存じのムーミンといわれている子)や、哲学者のようであり冒険家でもあるムーミンパパ、やさしくて皆から信頼されているムーミンママ、ムーミン一家と同居するちょっといじわるな発言の多いミィといった主要人物?が登場しません。

登場するのは彼らにふと会いたくなったり、恋しくなったりしたスナフキンをはじめとする人たち。そういった人たちが集まって過ごすことになるこの作品では、たとえば自由と孤独を愛するスナフキンも、自分の自由や孤独はムーミン一家とあってこそ味わえるものと気づきます。

この作品は、作者のトーベ・ヤンソンが母親をなくしたころに書かれたものといわれています。絆の深いお母さんへの思慕も作品のなかに寄り添っているような気がして、秋に読んでみたくなる作品の一つです。

 

(スタッフN & C)

ウカンムリを3つ持つ男、守富寛所長率いる守富環境工学総合研究所(Meel;ミール)のブログ「ウカンムリ日記」ですが、所長の出番が少ない!!という声があちこちから。でも、withコロナの日々で研究所に在席率の高い今なら、所長といっしょ。というわけで、守富所長にインタビューして、ミールと所長の今とこれからをお伝えします。

「守富所長と、いっしょ。」第二回のテーマは

「アカデミックストリートとワールドカフェ構想って、何ですか?」

 

◎ミールがある岐阜市問屋町2丁目(JR岐阜駅前)のアーケード街を活用した「アカデミックストリート」構想。そもそもどこから始まった話ですか?

守富所長/それはですね…、もともと私が大学を定年退職する直前の頃、後始末等々を含めてとても忙しかったんですね。その一つに「持っていた自分の書籍をどうするか?」という問題がありました。書籍を移動したり処分したり、さて、どうしようかと。

 そこで、選択肢としては、(1)研究室のなかに誰か引き継いでくれる人がいれば、それをまかせる。(2)図書館に持っていく。(3)自分で引き取って自宅に持っていくということがありました。

 といっても、一番目の誰かに引き継いでもらうというのは、この頃の大学というのはかつてのように必ずしも教授がやっていることを助(准)教授が引き継ぐということはなく、それぞれがバラバラの研究テーマになっていて、それぞれがたくさん本を持っているんですね。なかには共通のテーマの本もあるかもしれないけれども、大半は要らない本ばかり。ということで、残念ながら私の場合はこの選択肢はないなと。もちろん、研究室によっては教授・准教授が同じようなテーマを研究していて、「先生の本を、ぜひ置いていってください!」というところがあるかもしれないけれども、たまたまウチはそうではありませんでした。

 それから二番目の図書館という選択肢も厳しい。県も市もどこもそうだと思いますが、古本的な本はなかなか引き取ってもらえません。大学図書館の場合もすべてを引き取ってもらうのはスペース的にも厳しいと思います。在職中も研究室の本は「大学の所有物であるものも自分の研究室で保管してください」という方法でした。

 さらに自宅に持ち込むというのはもっと大変!!本は非常に重いので、普通の家に置いたら床が抜けてしまいます。あっ!四番目の選択肢として「すべて捨てる」というのがあります(笑)。

 そういった「大学研究室にある本をどうするか?」問題で困っていた時に、どこかに部屋を持ってそこにとりあえず蔵書を置いたらどうか?というアイディアが出てきました。私の場合はミールの事務所としてここをお借りして、とりあえず本を置くことにしまして…。これが「アカデミックストリート」構想の発端というわけです。

 

◎なるほど。ミールの所長室(2階)の壁一面はほとんど本棚になっています(笑)

所長/そうなんですよ。この大量の本をミールに10年置いておくのか?あるいは5年くらいで売りさばいてしまうのか?電子化できるものは電子化して、本として残しておいた方がいいものもあるよねと、一応整理しつつあるところではあるんですけど。

 私と同じような話は実際よく聞きますし、私からも先生がたに「皆さん、蔵書はどうされているんですか?」と尋ねると、だいたいは研究室に置いていくけれど、要らないといわれたものは誰かにあげるか、廃棄するか。自分で買ったものは自分の家に持って帰るというのが多いようなんですね。

 私の場合は一時的にミールに持ってきましたが…。他の先生がたにも、きっと同じようなニーズがあるなと思ったわけです。

整理する前の本棚です

 

◎それでいよいよ「アカデミックストリート」構想ですね。

所長/ミールを問屋町で開設してみて感じたのは、アーケード街には空き店舗が多くシャッターが目立つということ。今なら比較的安く借りられるので、大学を退職された先生がたの蔵書置き場を兼ねた研究や勉強の場として活用してもらい、その一方で、先生がたの本棚をある程度オープンにして、一般の人にも本を閲覧してもらえるようにしたらいいのではと。そうすれば、問屋町(問屋町2丁目)がアカデミックストリートという特徴あるアーケード街として新しい顔を持てるのでは?と発想しました。

 

◎問屋町とアカデミックの、共通項は「問」にアリ?! 多様な問が集まる場所になったら面白いですね。

所長/ハハハ。そうですね。岐阜や名古屋の大学の先生が辞められた後、ぜひ問屋町の空きビルを活用してもらったらいいなと思っているんです。問屋町はJR岐阜駅前にあって便利ですから、先生がたの蔵書、専門書に興味ある人、学生さんたちにとっても寄りやすい場所です。名古屋からも近いし。本当に必要であれば、便利な場所なのだから、本を見にくるのではないかと思うんです。大学を辞められた先生がたも蔵書の置き場に困っているし、読みたい人にもニーズがあるのでは?という期待感があって、やってみる価値があるのではと。

 であれば、単に私の本だけじゃなくて、いろんな分野の本があったほうが利用価値といいますか、見どころが増えて来やすくなるし、友達も誘ってくるだろうと。そうやって少しずつ問屋町というエリアの賑わいにつながっていったらいいな!という期待を込めて考え始めました。

 

◎具体的に動き始めているのでしょうか?

所長/はい、すでに町内(岐阜問屋町2丁目協同組合)の皆さんにはお話しました。空き店舗を積極的に貸して、ここ問屋町2丁目のアーケード街をアカデミックストリートと名付けてやっていくのはどうでしょうと。幸い、皆さんにはご理解いただいているんですよ。

 もちろん、我々大学人だけじゃなくて企業や家庭の人でも、本の保管にお困りの方、例えば亡くなられたおじいさんがたくさん本を持っていたとか、そういう人たちに活用してもらえたらと思っています。

 

◎研究の場というよりは「蔵書の貸し倉庫、兼、一般人が閲覧できる場」なのですか?

所長/スペース的にはそんな感じですが、その場所へ、たとえ週一回でも先生が来るということであれば、なおいいなと。そうすれば、訪れた人にとっては本との出会いだけでなく、さまざまな専門の研究者とトークする場所になると思います。

 

◎専門的な本と、その研究者に出会える場所に人が来るようになったら、いろいろな交流も生まれそうです。

所長/そこなんです。アカデミックストリートにオープンカフェのようなスペースをつくり、そこに人が集まって話し合えたらいいよね、というのはずっと考えていることです。お互いに情報や知識を持って、分野の違う人たちが交流できる場所になったら、皆さんそれぞれの知的欲求が満足するんじゃないかと!

 たとえばエコをテーマに調べ物したい人がいたとして、その話だったらあの先生がいいよとか、本はあそこにあるよと。分野の違う人や本が集まることで人の移動や交流が生まれるし、もしオープンカフェというスペースがあるということになれば、人に会い会話もできるという楽しみが生まれると思うんです。

 

◎それが、もう一つの構想「ワールドカフェ」にもつながるのですか?

所長/そうですね。ワールドカフェ的にワイワイガヤガヤと話せる場につながればと思っています。アカデミックストリートに行けば、本もあるし、人もいるし、話し合うこともできるよ、みたいなことですね。

 大げさにいえば、ガリレオもいればアリストテレスもいる、みたいな(笑)。先生がたも毎日は来られないでしょうけど、皆さんが集まれる日があれば面白い。そういうストリートにしたいなという夢があります。

 そして市の図書館がサポートしている「まちライブラリー」(地域のお店などが店内に自前の本を本棚に置き、訪れたお客さんが楽しめるようにする取り組み)のようなものも問屋町に入ってくれば、ますます多様な人に会えそうで、歩いているだけで楽しくなるんじゃないかなあと。

 ただ、このアカデミックストリート構想については町内会にもお認めいただき、ミール開設後の半年ぐらいは活動してきたのですが、そのあとがなかなか続かない。思ったほどニーズがなかったともいえるかもしれませんが…。


◎問屋町の空きビルの賃料が比較的安いといっても、初期投資も必要ですしね。

所長/それもあります。大量の本を置くとなれば、本棚をつくらなくてはいけないし、人に来てもらうのであれば、それなりに改装も必要になります。でも、問屋町ですから、もともと綺麗なアパレル関係の店をやっていたビルが多いのも利点。だから、ショールーム的な1階を活用すれば、それほど改装しなくても可能なんじゃないかと思うんですけど。

 当初考えたのは4階建のビルをうまく利用して、1階から4階までの各階に別々の人が入居すれば、家賃も1万から2万円ですむんじゃないかなと。とはいえ、外階段がないので、つねに1階は通り道になっちゃう(笑)。

 そのあたりは読み違えたのかもしれませんし、あるいはこれから賛同者が出てくるのか、宣伝が足りないのか…。でも、先日、とある用件でお会いした元美術館長さんも興味を示されていました。ご自身の蔵書(美術本のコレクションなど)をどうしよう?と悩まれているとのことでした。

 

◎ところで昨年はミールでワールドカフェ的なものを試験的にやってみましたし、年末は「人間図書館」にもトライしました。

所長/まずは身内からということで、ミールのメンバーを中心にやってみましたね。ミールの会議室(3階)を集まる場所とするなら、15人くらいまで。種まきとしては、身内から始めてみよう!とスタートしました。

 人間図書館は人を一冊の本に見立てて、その人の暮らしや人生について語ってもらうというもので、スタッフのKiさんとNさんが本役をして、読者役(聞き手)はそのほかのスタッフと関係者でやってみました。たとえばKiさんの「ジャムおじさんの冒険」では、家族ぐるみでジャム作りを楽しんでいるんだなとわかって良かったですね。この話を聞くまでは、いつもKiさんから美味しいジャムをもらって、ウマイなあ〜と単純に喜んでいるだけでしたが(笑)、どうして技術者がジャム作りにハマったのか?と、その奥にある物語を聞くことができました。

 こういったミールでの取り組みをブログなりツイッターなりで広報していき、身内に限らず、「皆さんとこういうことをどんどんやっていきたいんです!」と伝えていけたらいいんですけど、どうでしょうか?

 ブログなりツイッターなり見てくださる人がいたとして「こういうのをやってくださいよ」「こんな話題だったら行きたいな」と盛り上がったらもっと楽しい。まずは「話題募集中」ということで!そのあたりは広報担当のスタッフCさんに頑張ってほしいところです(笑)

 

◎あ、ハイ、そうですね(スタッフC…笑)。でも所長、ミールのツイッターのフォロワーは現在4人なんです!!フォロワーでなくても見てくださっている人はいると思うんですけど(笑)。たとえば、新しい生活様式をミール風に考えるのはどうですか。

所長/あっ、そのテーマ、いいですね!! withコロナ時代だからやれることを考えてみるとよいかもしれません。私もオンライン会議が増えましたから、感想も意見もいろいろあります(笑)。

 

◎余談ですが、スタッフCとスタッフNのコンビで、ブログの中で「読んでミール?」と題して、テーマごとに本を紹介する「ブックトーク」もしています。こちらにも、私も参加したい!という人が現れたら嬉しいなって思います。

所長/そうですね。読んでミールはすでに7回を数えて、ブログのコンテンツとして定着してきましたね。一つのテーマに思いがけない本が紹介されるので本好きの人も読書の幅が広がります。

 百聞は一見にしかず、といいますけれど、私の考えとしては、自身が目で見て体験したことでなくても、たとえば本をたくさん読んでいろいろな人の経験や考えに触れたり感じたりことはすばらしいと思うんですよ。そういう意味でも、アカデミックストリートの「本」の役割は膨らむんじゃないかな。ちなみに町内には古本屋さんもあっていい雰囲気なんですよね。

 

◎アカデミックストリート、ワールドカフェに続き、最近ではもう一つ大きい構想がありますね!

所長/はい。ミールのビルの裏側の壁にアートを!ということで、8月にはアーティストさんにアートペインティングしていただくことになっています。問屋町2丁目のビルが連なる南側の古い壁面は剥き出しのコンクリートで、廃墟のようなたたずまいが魅力という人たちも多いのですが、まずはミールの裏の壁に(大家さんや町内会のご許可をいただき)アート作品を描いてもらうということになりました。このアートも含めて、アカデミックストリートやワールドカフェなどで問屋町が注目され、立ち寄りたくなるエリアになったらというのが、私の思いなんですよ。

 そして、アカデミックストリートの「アカデミック」という言葉にこだわらず、空きビルに芸術家さんたちが(格安で)アトリエを構えるというのもいいなと思うんです。絵だけでなくダンスや音楽、演劇など、芸術とアカデミックなことが混ざっても面白いですよね。フランスでいえばモンマルトルのように、文化人がそこにいるみたいな…。芸術家も小説家もサイエンティストもいる。そんな風に街が育ったらいいかなと。

 問屋町に人が来てくれるきっかけとして、暇つぶしといったら叱られそうですが、「夜は飲みに出かけます」「これから名古屋に出かけます」という人が、午後3時とかに問屋町にやってきて、誰かと会うまでの間を過ごす。壁のアートを眺めるでもアカデミックストリートで本を見るでもいいじゃないですか。そういう場として使えるようになったらいいですねぇ。

 また詳しくご紹介する機会があると思いますが、直近では来月中旬から約1週間、アーティストのMADBLAST HIROさんが壁に絵をペイントしてくださいますので、楽しみにしています。

 そんなわけで、近くの玉宮町が夜の街であるのに対して、問屋町は昼の街であり、アカデミックでアートな街。そう!問屋町は昼間に楽しい街をめざす、というのが大きな話です。(注:玉宮町は、問屋町付近の所長が好きな飲屋街のこと

 

◎話が大きくなったところで、今回の「守富所長と、いっしょ。」はこのへんで。

次回は8月に予定しているアートペインティングについて、所長にそのいきさつや思い、願いなどを聞きたいと思います。

暑さにもコロナにも負けないで、to be continued!

写真一番右手にあるビルがミール。ミールの壁面のみ窓がないのでキャンバスに

 

2020 年 7 月 15 日

読んでミール?vol.7 〜夏〜

皆さま、こんにちは。

今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第7弾をお届けします。

テーマは「夏」。いつもなら旅行などの計画でワクワクする夏休みを思い浮かべる頃ですが、今年は思いがけない夏となりそう。昔、「ひと夏の経験」という歌がありましたが、この夏は本をたくさん読んで、たくさんの経験をしてみてはいかがでしょう。

今回もブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。

第7弾「読んでミール?」の始まり、はじまり。

Book Talker Naomi***

① 野坂昭如 著
「ウミガメと少年」(絵本)徳間書店

これは2001年に戦争童話集第一弾として書かれ、その後絵本やアニメ等になり、吉永小百合さんの朗読CDでも有名な作品です。6月末から8月、終戦を迎えるまでの沖縄がウミガメと少年の目を通して描かれています。
爆弾が破裂し、艦砲射撃の音や照明弾の眩しい光の中でもお構いなくウミガメは淡々と悠々と産卵をして海に帰っていきます。その自然のあるがままの姿は戦争下でも変わりません。
いま私達もコロナで非日常の生活を余儀なくされていますが、そんな中でもウグイスの声を聞いたり、川を小さな魚が泳いでいるのを見ると、自然の偉大さを思います。
空腹を抱えながらひとりぼっちでガマ(沖縄に多く見られる自然洞窟のことで、沖縄ではガマと呼ぶ)に隠れていた少年は「カメにしてやろう」と、ウミガメの卵を安全な場所に移動させて守っていたのに…。
ラストのような切ない思いを子供達に二度とさせない世の中を作ることが、私達の務めだと思いました。
絵の数々も味わいどころの一つ。たとえば表紙。ウミガメが泳ぐ海の色は限りなく優しく美しく…人間にとってもウミガメのように海で生きる生物達にとっても、平和で美しい海を守っていきたいですね。
また絵本の反対側からは「A Green Turtle and a Boy」と題した英語版になっていますので、海外の方にも読んでいただけますし、英語の勉強にもなります。


②松田悠八 著
「長良川 スタンドバイミー1950」
(2004)作品社

これは我がまち岐阜が生んだ作家、松田悠八先生がふるさと岐阜を描き2004年に第三回小島信夫文学賞を受賞した作品です。
1950年、年齢の違いや男女の違いも関係なく子供達が仲良く集団で遊んでいた懐かしい時代の岐阜。金華山や長良川などの豊かな自然の中で子供達が経験する色々な出来事には、大変な事やちょっとした冒険など沢山詰まっています。
中でも私は主人公ユーチャと同級生の女の子ユキチャにまつわる話が特に好きです。5年生の夏にユキチャが川で溺れた時に初めて女の子を意識する出来事があり、中学生になったばかりの夏には金華山に登り2人だけで上から花火を見た時の甘酸っぱい思いには心がときめきました。
この本を読んだのは10年以上も前の事ですが…今でも花火を見るたびにその情景が浮かび「いつか金華山の上から丸い花火を見てみたい」と思います。
今年は岐阜長良川の花火大会はありませんが…また花火を見ながら金華山の上にいるユーチャとユキチャに思いをはせることが出来るのを楽しみにしています。


③川上未映子 著
「夏物語」(2019)文藝春秋

これは二部構成で第一部は2008年に芥川賞をとった「乳と卵」に加筆したものです。そして第二部はその8年後の2016年から2019年までを描いたものです。
主人公の名前は「夏目夏子」。
主になる出来事は夏に多く、目次も「第一部 2008年夏」「第二部 2016年夏〜2019年夏」と夏づくしで、まさにブックトーク「夏」の為にある本!と思ったのですが、内容がとても難しく繊細で深い問題をはらんでいて「私に紹介文が書けるか?」と悩みました。でもこの本を多くの方に知っていただいたいという思いが強くなり、今回ご紹介することにしました。
まず「第一部」は夏子の姉とその娘が中心の話です。思春期の姪が生理(卵)について色々な疑問を持って悩みます。また姉は胸(乳)に強いコンプレックスを持っています。
「第二部」は、夏子は男性を好きになってもその行為は好きになれなく、一人で子供を産む可能性を探して精子バンクに行き着きます。しかしAID(精子提供)によって生まれた人の「父親が誰かわからない」という苦しみを目の当たりにして思い悩みます。
この作品は思い悩む人たちがそれぞれに自分なりの答えを見つけていく姿を描いている本なのかと思います。
その答えには賛否両論あると思いますが…大変な生い立ちや生活の中で一生懸命に前を向いて生きている姿には勇気をもらえるのではないかと思います。
皆さんに様々な考え方や生き方を知っていただければと願っています。

Book Talker  Chie***

安房直子 著

『白いおうむの森』〜『ひぐれのお客』(2010)福音館書店に収録〜

夏目夏子さんが主人公の小説『夏物語』に続き、私からも、夏子さんが出てくるお話からご紹介します。こちらは童話で『ひぐれのお客』という本のなかの一編として収録されています。主人公の少女の名前はみずえ。彼女はインド人が経営している宝石店にたびたびやってきては、店で飼われている美しい白いおうむに、ある言葉を教え込もうとしています。その言葉とは「なつこねえさん」。今のみずえよりももっと小さい時に亡くなった姉の名前です。お店を訪れる時には飼い猫のミーという白猫も一緒です。

ところがある日、白いおうむが居なくなり、インド人に「お前の猫が食べたんだろう」と詰め寄られます。そんなことはないと思うみずえでしたが、家に帰ってみるとミーも居なくなっていることに気づいて。

宝石店で見つけた狭い入り口から地下階段を降り、そうダンジョン!に入り込んで、あの世とこの世をつなぐ迷宮のような場所でなつこねえさんと会うお話です。白い猫と白いおうむはどんな役割をするのでしょうか。

安房直子さんのお話はいつも澄んでいて、どこか寂しい。誰もが経験したことのあるような、こころの奥に潜む、透明に出会えるような気がします。挿絵は刺繍を用いたイラストで、懐かしさと素朴さが安房ワールドのワンシーンを紡ぎ出していて素敵。

湯本香樹実 著

『夏の庭』(1994)新潮文庫

老人と少年たちという異世代がこころを通わせていくお話です。

夏休みの冒険ならぬ、体験として、「死んだ人って見たことある?」という好奇心から一人の老人の観察を始めた少年たち。それに気づくおじいさん。ある意味、子どもは邪気がないから残酷で、大人には邪気もあるからユニークに思える設定ですが、松田悠八作『長良川 スタンドバイミー1950』のように、少年期だからもらえる経験が(言葉として与えてくれる作者の文章が)宝物のように愛おしくなります。おじいさんにとっても最高に楽しい夏を過ごせたのではないかと。

湯本さんが描く世界に引き込まれ、その深いところに漂う優しさに触れながら、「生きること」と「死にいくこと」の両方について感じ入る大切な時間をもらえるのではと思います。でも少年たちは、失われるばかりでなく、宿り、共にあることに気づく。そんなお話といったらいいでしょうか。

大人になったなら、誰もが同じようなこころの経験を持って成長したはず。時折掘り起こし、思い出してみるのもいいものです。そうすることで、まわりの人々の顔や営みや言葉、まわりの風景や自然に育まれてきたことに、こころが膨らみ、感謝したくなるような気がします・・・。湯本さんの作品『春のオルガン』『ポプラの秋』もおすすめです。

旭屋出版編集部 編

『かき氷 for Professional』(2019)旭屋出版

夏といえば、かき氷! 頭がキーンとなるのが苦手な人も、ひと夏に一杯は食べてみたくなるのではないでしょうか。かき氷はもはや夏限定のものでなく、「かきごおりすと」と名乗る人もいたりして、かき氷の名店は全国にいくつもあります(岐阜にもありますよ!)。冬にかき氷を食べても頭がキーンとしないためにも、専門店では氷の温度を調整するなど工夫を凝らしたかき氷を提供しているのだとか。

かき氷をテーマにした本はこれまでに何冊も出ていますが、本書は専門店を目指す人向けに作られた本で、ビジュアルブックとしてもおいしそう!食べてみたい!と欲望をかきたてる優等生。人気かきごおり店のレシピも公開されていて・・・。たとえば、こおり甘酒牛乳、安納芋カキ氷、大人限定檸檬カキ氷、白いチョコレートとフランボワーズの焼き氷、信玄氷、おぼろ豆腐のかき氷などなど。

でも、この本の魅力は写真とレシピだけではありません。氷の歴史にも丹念な取材記事が掲載されていて、冷たいおいしさに目覚めた人々の喜びを支えてきた技術や情熱に驚くばかり。氷がいかに貴重品であったかということにも気づきます。平安の世に清少納言が『枕草子』で記した言葉——「あてなるもの。(中略)削り氷にあまづら入れて、新しき金椀に入れたる」。(あてなるものとは貴重なものという意味。あまづらとは、当時の甘味料で蔓草の樹液か甘茶蔓の汁と言われています)。千年前の貴人たちの憧れであり、尊いものだった、かき氷の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。きっと心身涼やかになりますよ。

(スタッフN&C)

ひんやりとした飲み物とともに・・・

2020 年 3 月 29 日

読んでミール?vol.6 〜春〜

皆さま、こんにちは。

今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第6弾をお届けします。

テーマは「春」。このところは新型コロナウイルスの感染拡大におびえて心身縮まる思いですが、一冊の本のなかへ旅して小さな楽しみ、救いや支えを見つけてみてはいかがでしょうか。

今回もブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。

第6弾「読んでミール?」の始まり、はじまり。

 

Book Talker Naomi***

 

「春」と言えば「桜」ですね。桜にまつわる3作を選んでみました。

①辻村深月著
『ツナグ 想い人の心得』(2019)新潮社

以前のブックトーク、テーマ「人とのつながり」でご紹介した「ツナグ」という本、これは最近出版されたその続編です。
一生に一度だけの死者との再会を叶える使者「ツナグ」を引き継いだ歩美の7年後の話です。
待望の続編は私なりに色々予想していましたが、それを軽く超える驚きと感動の話ばかりです。その中でも今回副題になっている「想い人の心得」の話は、とても心に染みる秀作だと思います。
それは断られても断られても一人の死者への面会の依頼を繰り返す蜂谷という人の話です。
奉公に上がった先のお嬢様で重い喘息を患って16才で亡くなった絢子さま。
桜が好きで毎年春を待ちわびていたお嬢様に桜を見せたくて、蜂谷は40代から何度も依頼を続け、命も尽きようとしている85才でやっと会う事が叶う。
そして、美しくも気が強い絢子が桜を見て発した素直で可憐なため息…。
想い人が幸せな気持ちになることこそが、自分の幸せという究極の「想い人の心得」を学びました。

 

藤沢周平著
『山桜』 新潮文庫『時雨みち』(1984)に収録

この作品は藤沢周平の短編です。
ひと枝の山桜が縁で知りあった野江と弥一郎。野江にとって弥一郎は以前再婚相手にと持ち込まれた中の1人だった。婚家で辛い思いをしていた野江にとっては「もっと別な道があったのに…」と思わずにはいられない。
それが正義の為に刀をふるって捕まった弥一郎の話を発端に離縁する事になり…別な道へと歩きはじめる野江。
田中麗奈と東山紀之出演で映画にもなり、山桜のとても美しい映像が印象的に映し出されたのが目に焼きついています。
はかなげに見えて凛とした美しさを持つ山桜のような野江を応援したいです。

 

須賀しのぶ著
『また、桜の国で』(2016)祥伝社

1938年ポーランドの日本大使館に着任した外務書記生の棚倉慎の話です。
ナチスドイツ侵攻の緊張が高まる中、戦争回避にむけ奔走するも戦争勃発。
ロシア人の父と日本人の母を持つ慎は、見た目は日本人には見えない日本人。
その慎とドイツ生まれのユダヤ系ポーランド人、シベリア生まれのアメリカに国籍を持つポーランド人という奇妙な組み合わせの3人はドイツ軍が迫る中を逃げていた。
絶体絶命の中、2人を逃す為にオトリになろうとする慎。その時に3人で最後に交わした約束が「いつか必ず、3人で日本の桜を見よう」です。
平和の象徴のような美しい日本の桜。
それを夢見た若者たちの姿に心を揺さぶられます。
今の日本はコロナウイルスの影響でゆっくりお花見も出来ない状況ですが…来年までには平和な日常を取り戻し、美しい桜の下で楽しく語らう事を夢みながら今を頑張っていきたいですね。
桜にまつわる小説でも読みながら…。

 

Book Talker  Chie***

タイトルに「春」が入っている本を選んでみました!

アガサ・クリスティー著

『春にして君を離れ』(1973)ハヤカワ文庫

ミステリー作家として有名なアガサ・クリスティーが1944年にメアリ・ウェストマコットの名前で発表した作品で、非ミステリーに分類される作品のうちの一つ。あとがきによると、この話のテーマはクリスティーが何年もの間こころのなかで追い続けてきたもので、いざ取りかかると一週間で書き上げたと述べているのも興味深いところです。

主人公は弁護士をしている優しい夫と一男二女に恵まれ、良き妻、良き母として生きてきたと自負する女性ジョーン。結婚している二女の見舞いのために訪れたバグダットからイギリスへと帰る旅の途中で物語は始まります。イラクの宿泊所で足止めになりどこへも行けなくなった彼女は、これまでの自分を家族との関係から考え直していき・・・。再会した旧友のブランチとの会話が重要な役割となり、殺人も誘拐も起きませんが、どこか謎解きのような流れも感じます。ちなみに原題はAbsent in the Springで、シェイクスピアのソネット(十四行詩)の一節、From you have I been absent in the springからとられています。邦題は訳者の中村妙子さんによるもの。美しいタイトルに惹かれた人はぜひ。読み進めると、ある意味、ホラーかもしれませんけれど!

 

ヘルマン・ヘッセ著

『春の嵐 ゲルトルート』(1950)新潮文庫

青春時代、ヘルマン・ヘッセの作品にのめり込んだ時期がありました。ヘッセといえば『車輪の下』や『デミアン』が有名ですが、私の場合は『春の嵐』がとくに好きで持ち歩くほどでした。なぜでしょう?その疑問と「春」のお題を胸にストーリーを紐解いてみるのも今の自分にとって大切なことかもしれません(これから再読します・・すみません)。

主人公は若い時に無茶をして身体障害を持ったクーン。音楽の道を志すなかで、友人のムオトというオペラ歌手、そしてクーンが愛したゲルトルートという女性(のちにムオトと結婚する)との三角関係に苦しみます。

春の風は優しい風ばかりではありません。春一番は「チコちゃんに叱られる」によれば、死を招くほどの突風。とすれば、春の嵐とは?

海外では、主人公の想い人ゲルトルートが表題になっているそうです。

 

山本健吉編

『日本の名随筆17  春』(1984)作品社

作品社のシリーズ「日本の名随筆」を揃えるのが夢で、毎月2冊ずつ、時に古本屋で見つけたものも含めてコツコツ買い揃えていきました。100冊揃ったときの感激は今でも忘れられません。

折々にテーマごとに編集された名随筆を楽しんでいるのですが、その17番目のテーマが「春」。ところが今回開いてみたら新品同様の綺麗さに驚きました。つまり揃えたことに満足して「春」は未開封でした(笑)。

でもやはり、名随筆。どのページを開いても素敵な文章に出会えます。〈新年〉と〈春〉の章があり、〈春〉には串田孫一、篠田桃紅、河井寛次郎、中村汀女、井伏鱒二、森茉莉など30数名の書き手の名前が並びます。

ちなみに本の冒頭には詩(山村暮鳥作)が・・・。

いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな・・・。

いちめんのなのはな、という9文字の行に埋もれるようにして入っている言葉は・・・。かすかなるむぎぶえ、ひばりのおしゃべり、やめるはひるのつき。

春の気配を、ひらがなにみちた言葉の草原で味わえます。

 

(スタッフN&C)

 

 

 

 

 

皆さま、こんにちは。

今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第5弾をお届けします。

テーマは「ねこ」。その理由はミールのマスコット・黒猫のミールに敬意を表して(というのと、ブックトーカーのふたりが猫大好きだから!)です。

ねこをテーマに決めたのはいいのですが、好きとはいえ、やはりあちこち迷い道は毎度のこと。何か月もかかってしまいました。今回もブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。

第5弾「読んでミール?」の始まり、はじまり。

 

Book Talker Naomi***

佐野洋子著
『100万回生きたねこ』(1977)講談社

100万年もしなないねこ。
100万回もしんで、100万回も生きた、とらねこのお話です。
100万回の様々な人生(猫生)を送ったねこが100万回目を最後に生き返るのをやめたのは?
これは大人の為の絵本では?と思うほど胸にせまってくる絵本です。
その証拠にこの絵本を愛してやまない13人の著名な作家達(谷川俊太郎・角田光代・工藤直子・江國香織など)が思わずオマージュするような短篇を書いてしまったというのが…
『100万分の1回のねこ』(2015)精興社です。
併せて読んでいただければ2倍…いえ13倍楽しめます。

角野栄子著
『魔女の宅急便(全6巻)』(1985〜2009)福音館書店

このお話は映画で有名ですが、映画で描かれたのは実は始まりのほんの一部分。そこから主人公のキキが宅急便の仕事を通して様々な経験をしながら成長し、やがて結婚して母親となり子供の成長を見守るまでが6冊に渡り描かれています。
そしてその中で重要な役割を担っているのが黒猫の存在です。
魔女に子供が生まれると必ず生涯の友である黒猫があたえられます。キキも自分の双子の子供達に1匹ずつ与えます。
飛ぶ魔力が備わっているけど魔女として生きる事を迷っている女の子と飛びたいと願いつつも飛ぶ魔力のない男の子…そんな2人ですが黒猫と会話する力だけは均等に備わっていました。
そしてそれぞれの道に向かって黒猫と一緒に旅に出る2人…それはかつてのキキと黒猫ジジのようです。

工藤直子著
『ねこ はしる』(1989)童話屋

これは捕食関係にある子猫と魚の間に芽生えた不思議な友情とその成長を描いた作品です。
それを見守るのは「野ウサギ母さん」や「おたまじゃくしからのつきあいの蛙」「昼寝をしていた蟻」「通りがかったみつばち」などだけでなく、「野原に立つケヤキの木」や「ゆれるススキたち」「水底の石」「太陽」「風」など自然の中にあるもの全てに語らせる事の出来る工藤直子さんならでは個性豊かな脇役達です。
命の尊さを考えされられ…大人にも子供にも是非読んで欲しい作品です。

 

Book Talker  Chie***

 

宮沢賢治作

『猫の事務所』(1983)パロル舎

宮沢賢治ファンにとってこの本はどのような位置付けなのでしょうか。猫好きの私としましては、猫の生態をたくみに匂わせつつ、本当は人間界のいじわるなこころを詰め込んだお話、というふうに感じます。

舞台は猫の第六事務所。「ここは主に、猫の歴史と地理をしらべるところ」で、職員は事務長(黒猫)と一番書記(白猫)、二番書記(虎猫)、三番書記(三毛猫)、四番書記(かま猫)の計5名。かま猫とは皮膚がうすいので寒がりでどうしてもカマドに体をつっこんで寝てしまうため、いつも煤で汚れた猫のことをいうのですが、物語の主人公がこのかま猫です。

書記は知的職業で、一般の猫から羨望の目でみられるエリート。その狭き門を最後にくぐりぬけた、いわゆる新人書記のかま猫は40人の中から選ばれたという超エリートです。

そのようなかま猫は優秀で気遣いがあるゆえに、先輩書記に嫉妬され、事務長には誤解されてしまう。先輩たちのいじめの手口は、猫の無軌道なノビやらアクビやらの呑気さとは裏腹に陰湿です。最後は思いがけない展開で事務所は閉鎖してしまうのですが・・・。

物語のディテールをのぞくのも面白いです。猫は何人、と数えられ、優秀なかま猫の仕事ぶりは、質問にすぐに答えるため「かま猫はもう大原簿のトバスキーとゲンゾスキーとのところに、みじかい手を一本ずつ入れて待っていました」と、事務長らがその周到ぶりに感服する場面があります。そう、猫は、完全なる人扱いです。

ところで、この本の名朗読に長岡輝子さんによるものがあります。東北弁のイントネーションで語られるお話に聴き入ると、いじめの過程が滑稽で・・。そもそもいじめは滑稽な世の姿、という気もしてくるのは不思議です。

長岡さんの「原簿、原簿(ゲンボ、ゲンボ)」という声が可愛くて・・・。ちなみに原簿は書記猫にとって知のシンボル。先輩猫にいじわるをされて、取り上げられた原簿にも意味を感じます。ぜひ朗読での読書もおすすめします。

 

大佛次郎著

『猫のいる日々』(1978)六興出版

猫と作家は切っても切れない間柄。内田百閒先生の『ノラや』は飼い猫が失踪したのを悲しむあまり猫探しにのめり込む老作家(ご本人)のお話ですし、夏目漱石は猫好きかどうは不明なれど、猫の目線で小説を書き、これにより職業作家となりましたし、猫を描いた絵も残っています。脚本家の向田邦子さんの愛猫マミオは、彼女が旅先のタイのバンコックでひとめぼれして我が家に迎え入れた猫でした。

『鞍馬天狗』など歴史小説で名を馳せた大佛次郎も並外れた猫好き。猫を題材にしたエッセイや物語を多く残しており、没後『猫のいる日々』が出版されました。どのお話も猫好きには心地よく楽しいものですが、童話『スイッチョねこ』は、虫を飲み込んだ子猫・白吉の苦悩と、不思議な安らぎを猫の気分になって読めるお話です。スタッフNさんのおすすめ『ねこはしる』に登場する猫と魚の関係性にも似ていながら、視点が違えば、このようなファンタジーにもなるんだなあと感じる本でもあります。

大佛次郎の名文は童話の世界でも素敵です。最後のほうにこんな一文が待っています。

「しかし、じょうぶで生きていれば、この世の中がどんな時もたのしいし、よいものだと知っていましたから、朝起きるのをたのしみに、ぐっすりと、よくねむるのでした。いつも目をさますと、きのうとちがう新しい朝がきています」。

子猫も尊い日々を懸命に生きながら、いつもいつも、新しい今日を迎えているのですね。そう、私たちも!

 

ハンス・フィッシャー文・絵 石井桃子訳

『こねこのぴっち』(1954)岩波書店

ねこの絵本は数々あります。あると思います。けれども、私の書架にずーっと居続けてくれるこの本は、やはり絵の可愛らしさが特別で、どうしてもおすすめしたい一冊です。ハンス・フィッシャーは『ブレーメンのおんがくたい』の絵でも知られるドイツの作家です。

さて、主人公であるぴっちという子猫は、他の兄弟猫とは違う行動をします。その理由は、にわとりやヤギといった他の動物に会うたびに、彼らになってみたいという憧れがこころいっぱいにあふれるから・・・。

この本を眺めていると、出会うお友達は猫とは限らないと知り、自分を猫と決めつけない、というこころの柔らかさに驚きます。スウェーデン人作家のアストリッド・リンドグレーンが描く世界一強い女の子の物語『長くつ下のピッピ』の自由さも、ふと思い浮かべたりもします。

ぴっちとピッピ。似た者どうしかな(笑)。

 

(スタッフN&C)

 

 

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