皆さま、こんにちは。
今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第4弾をお届けします。
ミールの仕事の4つの柱を一つずつテーマにして進めてまいりましたブックトーク。4回目は「リサイクル」がテーマです!
リサイクルという言葉、普段からよく使っていますね。広辞苑には「資源の節約や環境汚染防止などのために、不用品・廃棄物などを再利用すること」とあります。なるほど。でも、あらためて考えてみますと、リサイクルの語は身近でありながら、人によって解釈や思いがさまざまのような気もします。では、本を紹介するブックトークではどんな風に展開したらいいのでしょう?!と、ブックトーカーの二人は今回も深い迷いの道へ・・・。
あちこち寄り道、行きつ戻りつする時間のなかでスタッフNが、あっ!と思いついたのが、リサイクル=再生という考え方です。再び生きる、生き直す。この視点で本棚を眺めると、あれもこれも!とこころがふわ〜んと広がります。一方、スタッフCは、サイクルという大きなめぐりに人が関わってリサイクルも生まれるのかな、と考えました。
そんな訳で、第4弾「読んでミール?」の始まり、はじまり。
Book Talker Naomi***
①
グリム童話
「ブレーメンの音楽隊」
このお話は年をとって役に立たなくなったため食事が与えられない馬や捨てられてそうになった犬や猫、そして明日スープにされそうなニワトリが新天地を求めて一緒にブレーメンへ旅をする話。
途中で見つけた「泥棒の家」で力を合わせて泥棒をやっつけて、みんなで仲良く暮らす…誰もが知っている童話です。
これが何故リサイクルか?
物が古くなっても使い方次第、人が年をとってもアイディア次第で「役に立つ」というエールを込めて選びました。
そしてスタッフCさんのアドバイスを受けて、同じ「ブレーメンの音楽隊」でも様々な本を見比べてみました。
それぞれに素敵な絵や言葉、中には工夫を凝らしたしかけ絵本や折り紙で作ったもの(最後におり方説明付き)など沢山種類があって…こういう楽しみ方も良いなと感じました。
【読みくらべ&眺めくらべも楽しい!ブレーメンの音楽隊いろいろ】
◎福音館書店(グリム童話)ハンス・フィッシャー 絵 せたていじ 訳
◎小学館(世界名作おはなし絵本)和歌山静子 絵 寺村輝夫 文
◎フレーベル館 (キンダーおはなしえほん)なかのひろたか 絵 間所ひさこ 文
◎講談社(えほん世界のおはなし)ブライアン・ワイルドスミス 絵 角野栄子 文
◎(はじめてのしかけ絵本)学習研究社 絵 かいちとおる
◎(おかあさんとつくるおりがみえほん)著者 桃谷好英 桃谷澄子
次の2作は「リサイクル」=「再生」と考えて選びました。
②
横山秀夫著
「ノースライト」(2019)新潮社
一線から外れた建築士が望まれて、久々に情熱を燃やして評判になる家を作ったが…4カ月経っても依頼主は住んでいないどころか行方不明になっている。という所から始まるミステリーで、その依頼主を探す中で建築家としての再生、離婚した妻子との家族としての再生、そして過去に事故で亡くなった父への思いの再生を描いた作品です。
小説には人間の再生について扱ったものは沢山ありますが…この作品は上質のミステリーである上に、建築の世界についての専門的な話とか有名な建築家「ブルーノ・タウト」の家具や工芸についての話など魅力的要素が満載です。
その中でも横山秀夫さんが描く男同士の友情に感動間違いなしです。
③
東野圭吾著
「秘密」(2001)文藝春秋
乗っていたバスが崖から転落した母親と小学5年生の娘。娘をかばった母親は死に、意識をとりもどした娘には何故か母親の意識が入れ替わっていた。
その「秘密」は夫にだけ明かされ、妻は小学生として生きるという再生を決意する。
表面上は親子でありながら2人でいる時は夫婦の会話…ちょっと奇妙な楽しい生活も娘(妻)が大人になった時に転機がきます。
「このままではいけない」とお互いを思い合っての最後の決断。
2人だけが知る切ない「秘密」とその再生への道に涙が溢れます。
あり得ない不思議ワールドの話ですが…これもひとつの再生の形かなと思いました。
Book Talker Chie***
リサイクルという言葉を考え始めると、循環やめぐりの大きな「輪っか」を想像し、自然や植物のめぐりを思い浮かべます。そこへ人が介在することで輪っかがゆがんだり、楽しくなったり。人の暮らしが輪っかのなかに入り込み、なじみながら変化する。そんななかで生まれるものもリサイクルの側面なのかなと考えました。ということで、かなりこじつけですが、今回は「植物系」3本立て!
(1)
モーリス・ドリュオン作 安東次男訳
「みどりのゆび」(1977)岩波少年文庫
フランスの作家が書いた童話で、どこか「星の王子さま」のような独特の雰囲気を持っています。大切なことを教えてくれているのだけど、すこしひねくれやさんのユーモアやセンスを感じながら、単純にはひもといていけないような・・・。
主人公は裕福な家に生まれ育つチト少年。学校を行くのをやめて庭で勉強をするという自由な教育を受けることになり、庭師のムスターシュおじいさんに仕事をいいつけられながら、土のこと、植物のことを学んでいきます。庭の授業、つまり土の授業を考えついたのはお父さん。「土はあらゆるものの起源だからね」というのです。なかなか興味深い考えですねえ。
さて、チトが庭で勉強を始めて、いろんな発見をするうちに自分のおやゆびが不思議なことを起こす「みどりのゆび」ということに気づきます。チトがおやゆびでふれるといろいろなものが植物に変わり、花を咲かせるのです。貧民街も刑務所も、そうしてチトはお父さんの兵器工場にある大砲も花いっぱいに変えてしまいます。お父さんもまちの人も驚きます。お父さんの工場は?兵器産業のまちは?チト少年の発見や思いをたどっていくと、チト少年がどんな存在かにつながる本です。ジャクリーヌ・デュエームの挿絵もすばらしい!
(2)
カレル・チャペック著 小松太郎訳
「園芸家12カ月」(1975)中公文庫
チェコが生んだ偉大な作家、カレル・チャペックの作。チャペックは戯曲「ロボット」で労働を意味するチェコ語からロボットという言葉を作ったことでも有名ですね。文筆活動は幅広く、小説、旅行記のほか、愉快な童話も書いています。また園芸をこよなく愛し、この本が生まれました。挿絵は画家、兄のヨゼフ・チャペック。とても味わいがありますよ。
「園芸家12カ月」は園芸ファンはもちろん、興味のない人までもその魅力の渦に巻き込んでしまうとても楽しい本で、園芸家の土づくりに対する、水やりに対する、草取りに対する興味と挑戦と執着(?)つまりさまざまな園芸の日々を一年を通して書いています。
身も心も一年のめぐりのなかで動きつづける哀れで愛すべき園芸家。最後にはこう書いてあります。「われわれ園芸家は未来に生きているのだ。バラが咲くと、来年はもっときれいに咲くだろうと考える。10年たったらこの小さなトウヒが一本の木になるだろう、と。早くこの10年がたってくれたら!50年後にはこのシラカンバがどんなになるか、見たい。本物、いちばん肝心のものは、わたしたちの未来にある。新しい年を迎えるごとに高さとうつくしさがましていく。ありがたいことに、わたしたちはまた一年齢をとる。」
微笑ましくて健気な園芸家がめぐりの一員になれて、自分でもできるリサイクルに堅実に励めますように。
(3)
絵・文 群馬直美
「街路樹 葉っぱの詩」(2007)世界文化社
「葉画(ようが)家」の群馬直美さんは、美しい葉っぱや実の絵の本を世に出していますが、今回ご紹介するのは、群馬さんが東京近郊の街路樹をたずね歩き、葉っぱと街路樹、街の様子を描き、文章をつづったもの。とても時間をかけて本にされたのだろうと想像がふくらみます。
東京へ行くたびに街路樹の立派な様子を見て、都会の品格を感じます。高さのある豊かな表情の街路樹は、人のこころに静かにゆっくりと季節の移ろいを教えてくれます。もちろん、地方にも街路樹は多く存在し、日常の風景の額縁のような役割を果たしています。街路樹は計画的に植えられた存在ながら、一年のサイクルを感じさせてくれる存在ですね。
自治体ごとに異なるのでしょうが、枯葉や剪定した枝葉はリサイクルされ、腐葉土に。歩行者は落ちている葉っぱや実を拾って、あらためてこの木何の木だったっけ?と感じるのもいいものです。ちなみに私がよく歩く名古屋の道の街路樹には桜があります。雨上がり、雨がかわいていくときに桜餅の匂いに包まれます。ほんとですよ!
(スタッフN&C)
皆さま、こんにちは。
お待たせしました!(お待ちいただいていないかもしれませんが・・・)ミール風ブックトーク「読んでミール?」の第三弾をお届けします。
今回のテーマは、ミールの仕事の4つの柱のうちの「エネルギー」について。このテーマをどうとらえたらいいのかとブックトーカーの二人はそれぞれ楽しみながら悩みまして、それぞれの心の本棚から、もしくは近くの図書館の書架から選んだものを3冊ずつご紹介いたします。前回のブックトークにスタッフCが「料理本」を出したことに「その手がありましたか〜」と考えたスタッフNの選んだ本のバラエティ感にもご注目ください。
それではスタート!
Book Talker Naomi***
①
長谷川摂子・文 なかがわまさこ・え
『ぐやんよやん』(1999)福音館書店
この絵本に出会ったのは図書館。小さな子供の為の読み聞かせを覗いた時です。まさに地球が誕生する時の様子を描いたような不思議な絵に「ぐやんよやん」をはじめ「じんじじんじずー」とか「どんでがんでぽっくぽく」といった不思議な擬音のオンパーレード。これこそ子供が地球にある「エネルギー」を初めて感じる絵本ではないかと衝撃を受けました。
実はこの時の本がどんなタイトルの本だったかを探し出せずにいたのですが、ずいぶん時間が経ってから図書館の司書さんに尋ねたところ判明しました!(さすが司書さん、ありがとうございました)
②
マーガレット・ミッチェル・作
『風と共に去りぬ』(原書1936年出版)
○大久保康/竹内道之・訳 河出書房新社(後に新潮社からも)
○鴻巣友季子・訳 新潮社
○荒このみ・訳 岩波書店
「エネルギー」が溢れる人物を考えた時、高校時代に図書館で借りて夢中になって読んだ「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラを思い出しました。
レット・バトラーとの愛のゆくえも気になりましたが…やはり何度も挫けながらも立ち上がり前に進もうとするスカーレットの燃えるような「エネルギー」にとても魅力を感じました。
そして大人になって自分でこの本を手に入れた時はとても嬉しく…好きが高じて遂には続編「スカーレット」も買ってしまいました。別の方が書いた続編については賛否両論ありますが…これだけの作品を書く彼女もとてもエネルギーのある方だったのだと感じました。
(参考)「スカーレット」アレクサンドラ・リフリー・作(原書1991年出版)
森瑤子・訳 新潮社(今は絶版)
③
手塚治虫・作
『火の鳥』全12巻(1954〜1986年出版) 朝日新聞出版、角川書店他
何でもありのブックトークの最後は漫画の登場です。
「エネルギー」と言えばやはり燃える繋がりの「火の鳥」と実は1番先に思いつきました。
学生時代に読みましたが…最近思いたってまた1巻から13巻全部読み直しました。(時代は黎明期・未来・大和・宇宙…と順不同に進みます)
「火の鳥」は100年に一度みずからを火で焼いて再生しながら生き続けます。そしてその血を飲めば永遠の命が与えられるという事で欲にかられた人間がつけ狙い命を落としていくという「人間の業」と「生命について」を古代から未来に渡って問いかける作品です。
人は「エネルギー」は永遠にあると思い、自分達の為に無駄に使い続けて…今やっと限りがある事に気付きました。
私達がいま出来ることは「エネルギー」を枯らす事ではなく…未来の子供達の為に「エネルギー」を残すこと、再生すること、そして環境に害を及ぼさない新しいクリーンな「エネルギー」を作っていく事かと思います。
人・動物・魚・植物などの全ての「生命」の為に頑張りたいですね。
Book Talker Chie***
(1)
作・LaZOO 絵・山内和朗 監修・環境情報普及センター
『エネルギーがもったいない』(2007)学習研究社
この本は守富環境工学総合研究所(Meel:ミール)のホームページづくりをウンウン唸って試行錯誤していた頃、環境って何?エネルギーとは?とあらためて、かつ、シンプルに考えたくて、「絵本」に救い?を求めていた時期に出会った一冊です。
「カンシャの気持ちを育てる本 もったいないからはじめよう!」というシリーズの第6巻にあたるこの本では「エネルギーはごはんだよ」の一言から始まり「ごはんを食べなきゃ、体は動かない」となり、「物だってごはんを食べなきゃ動かない」と続いて、「物のごはんは、石油や電気やガス」「石油やガスは使えばいつかなくなります」とつながっていきます。
シンプルな言葉と温かみのある絵が「大事だなー」と思えることを伝えてくれている感じ。では、大事だなーと感じる心を、私たちはどう大切にしたらよいのでしょう。
監修された原陽司さんの言葉も素敵です。「モノに対する尊敬と感謝の気持ちを持って生きることは、取りも直さず、地球に優しく生きることにほかならないのです」。
大事だなーって思える心の「根っこ」が、感謝の気持ちだったらいいですね。それが地球の一員である証だったらいいですね。
(2)
桑子敏雄著
『何のための「教養」か』(2019)ちくまプリマー新書
「根っこ」。地中に張り、地上の幹や枝や葉や花を支える存在。この言葉を使うときに思い浮かべる哲学者がいます。桑子敏雄さんの近著『何のための「教養」か』では、人間を一本の木にたとえるならば、その根っこにあたるのが教養であると語られているのが印象的。この本では哲学者、そして東京工業大学を軸とする大学教師としての日々と並行し、時代ごとに求められた「教養」について展開されています。
『環境の哲学』(1999)が建設省に注目され、ダム建設や河川改修など公共事業の合意形成に関わるようになった“地を這う哲学者”ともいわれる桑子先生のエネルギーが静かに染み込んでくる本。高校の国語の教科書に掲載されるなど名文家らしい魅力もあふれています。
(3)
伊藤親臣著
『空から宝ものが降ってきた!』(2016)旬報社
「エネルギー、エネルギー!」と考えながら、お得意の図書館の児童書コーナーで見つけた本。思わず、雪の研究で世界的に有名な中谷宇吉郎先生(1900〜1962)の名言「雪は天から送られてきた手紙である」を思い出したタイトルでした。
この本は、雪のエンジニアとして「利雪」に取り組む著者が日本の特徴でもある雪の多さを日本で活かそうと、日本人と雪の関係をはじめ、世界初となる雪冷房の学校や、お米を貯蔵する雪冷蔵倉庫など、これまでの取り組みを順序立てて説明してくれる楽しい本です。
雪というエネルギー。日本は雪の多い地域が多いこと、雪の多い地域に人が多く住んでいることが世界的に珍しいという点にも、あらためてびっくり!まだまだ暑い秋の始まりに、空からのひんやりした宝物について思いを巡らせてみませんか。
写真はブックトーカーの二人がよく通う図書館。空の雲も綺麗です。秋ですね〜。
(スタッフN&スタッフC)
皆さま、こんにちは。
ミール風ブックトーク「読んでミール?」の第二弾をお送りします。今回のテーマは、ミールの仕事の4つの柱、リサイクル・エネルギー・環境・人とのつながりのうちの、「人とのつながり」。とっても広がりがあって、なんでもあり?のようなテーマですが、ミールの2人がブックトーカーとなって、それぞれのこころの本棚から好きな本をご紹介します。
なお、打ち合わせなしで進めていますので(笑)、ご紹介する本の年代に偏りがあります。
新しい本や話題になった本、昔の本だけどいまも出版され続けている本、もしかしたら絶版の本?など、もしよかったら読んでみてくださいね!
Book Talker Naomi***
①瀬尾まいこ著
『そして、バトンは渡された』(2018)文藝春秋
それは2人の母と3人の父の間をバトンを渡すように育てられた女の子の話です。
母親が幼い時に亡くなり、父親が若い女性と再婚する。その父が海外赴任する事になり若い義母と日本で暮らすが…その後、父との連絡が途絶え義母は高齢の男性と結婚する。しかし義母は出て行き義父と暮らしていると、義母が迎えに来て今度は若い男性と結婚する。そしてまた義母は出て行き、若い義父との生活が…。こう聞くと何という大変な生い立ちで、苦労を重ねて成長してきたんだろうと思いますが…本人は全然苦労をしたとは思っていなくて、むしろ5人の親達から沢山の愛情をもらって、とても幸せに暮らしていたと思っています。
確かに、中には一風変わった形の愛情表現の親もいますが…でも間違いなく皆が彼女をとても愛していたのです。そして彼女がその愛情を愛情として受けとめる心があったからこそ…胸を張って幸せだと言えるのだと思います。
人と人とのつながりは相手を思いやる心、そしてそれを受け入れる心があって初めて成立するのかと思いました。
②海猫沢めろん著
『キッズファイヤー・ドットコム』(2017)講談社
これはホストをしている男性が自分の玄関の前に捨てられていた赤ん坊をクラウドファンディングで育てる…という近未来的な話です。
名前を付ける権利とか初めて抜けた乳歯をもらう権利とか!奇想天外な発想でお金を集め育てていく。中には「これはどうなのだろう?」というものもありますが。
でも基本的にはこのホストは自分の子かどうかも分からない赤ん坊に愛情を注ぎ、どんな事をしてでも育てようとしている事は素晴らしいと思います。
そして子育てを助けるため、クラウドファンディングで出資している人達もこの子の為に何かしようという思いを持った人達で…。これこそ人と人とのつながりかなと思った一冊です。
③辻村深月著
『ツナグ』(2010)新潮社
これは人と人のつながりと言っても、片方はもう亡くなった人という変わりダネで、一生に一度だけ死者との再会を叶えてくれる使者(ツナグ)を継承した高校生の話です。
それは自分の思いをお互いに伝えられないまま亡くなった親子だったり恋人同士だったり、友達だったりを一晩だけ会わせる仕事。そこには会いたい人に会えて思いを伝えられた喜びもありますが…またすぐに別れる悲しみや知らなかった方が良かった苦しみもあります。
間近で色々な人の出会いを経験し、自分の両親が亡くなった訳も知る事になるツナグという仕事。彼が最後にその仕事を継承する事を決めたのも、やはり人と人(死者ですが)が対話すること(つながる)ことに意味を見出したからなのかもしれません。
Book Talker Chie***
(1)
文シャーロット・ゾロトウ、絵メアリ・チャルマーズ、訳矢川澄子
『にいさんといもうと』(1978)岩波書店
この絵本の登場人物はにいさんといもうとの二人だけ。にいさんが妹をからかって、ちょっといじわるな言葉を言うたびに妹が泣く、という繰り返しのお話です。でも妹はお兄ちゃんのいじわるを真に受けているばかりではありません。ある日、本当はいじわるなんてしていないことも知るのです。だから、二人はやっぱり自然に仲良く並んで遊びます。
私ごとながら、私には5つ年上の兄がいて、幼い日、心配性の兄は生まれたての妹の様子を見に行くために度々保育所を脱走しては家に帰り、小学6年になると1年生になったばかりの妹の教室を何度も見に行ったそうです。そういう兄がいて、私がいるのかなと思います・・・。
兄と妹の幼いやりとりのなかに温かみや平和を感じ、二人のつながりのなかに言葉では表せない皮膚感覚の信頼や親しみを感じるこのお話。子どもの読者はどう感じるのかはわからないのですが、大人の読者は本に呼吸を合わせているうちに懐かしく、子どものときにふと戻れるような感覚になります。何と言っても水色と黄色の配色が美しくて、やさしい。活字や絵は無音でも、愛らしい音楽が聞こえてくるみたいに。
ちなみに英語タイトルは『BIG BROTHER』。日本語訳のタイトルのやさしさが素敵だなーと思うのですが、いかがでしょう?
(2)
ぶんジャニス・メイ・ユードリー、えモーリス・センダック、やくこだまともこ
『きみなんかだいきらいさ』(1975)富山房
こちらの登場人物も二人だけ。ジェームズとぼくの友情のお話です。最初のページは「ジェームズとぼくはいつもなかよしだったよ」と始まるのに、次をめくると「でも、きょうはちがう。ジェームズなんかだいきらいさ」となってしまう。二人がどれほどなかよしだったかは「みずぼうそうにもいっしょにかかった」ほどなのに、「でも、もうジェームズとはいっしょにみずぼうそうにかかったりするもんか」とぼくは怒っています。
ページごとにジェームズに対する不満が伝えられ、怒り続けるぼく。彼らは一体どうなるの?それは大人の読者ならわかっていることですが・・・やっぱり、仲直りできるようです。こちらも配色の妙、緑と赤の二つの色にこころが動く一冊で、白地を生かした「間(ま)」も言葉以上に雄弁で幼い二人が生み出す空気感を表現しています。
英語タイトルは『LET’S BE ENEMIES』。あれれ、これは、穏やかな表現ではないような。私なら、『だいきらいは、だいすき』と付けたい本です(笑)。
英語の絵本や児童書の翻訳はとても難しいことなんだろうなあと想像します。タイトルはなおさらのこと。シンプルでわかりやすく、そしてイメージがふくらむように。日本語、そしてひらがなの柔らかな力を借りて、こころをそっと包んだり、ドキドキワクワクさせたり!短い文章やタイトルを味わうことも読書の楽しみですね。
(3)
平野レミ著
『笑顔がごちそう』(1997)講談社
料理愛好家、シェフではなくてシュフという平野レミさんのお料理番組を見たことのある人ならば、彼女の自由で楽しいお料理づくりの様子に思わず笑顔になり、肩の力が抜けるのではないでしょうか。
さて、おしゃべりやふるまいが楽しい人の本はやはり楽しい!ということが実感できるのがこの本。レミさんの独創的な料理「七夕そうめん」や「もちもちカレーチャウダー」「きんぷらおやき」を紹介する写真も魅力的ですが、エッセイやイラストレーションがとにかく楽しい。「みんなで食べると仲良しになる」「誰かのためにおいしいものを」「小さい子は詩人」などのエッセイでは、子供や夫、友達など身近な人とのつながりが、食べものや食卓を囲む時間を通じて描かれています。お子さんたちが描いたという絵もユーモアたっぷり。本の装丁・デザインは夫でイラストレーターの和田誠さんという家族の愛情が満ちた一冊です。ちなみにこの本は20年以上前の本で、本に登場するお子さんたちも今では立派な大人。今ではそのお嫁さんも料理研究家として活躍していますね。家族の成長とともに、つながりも変化して広がったり深まったり。そんなことを思い浮かべながら読むのも楽しいですよ。
***
写真は、岐阜市庁舎建設中の写真。「ささえーる」という言葉をかかげるクレーン車もひと休み。
「ささえる」強さも時には休んで、人のつながりの中でゆっくり、のんび〜りしたいですね。
(スタッフN&C)
Book Talker Naomi *********
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