ウカンムリ日記
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2020 年 3 月 29 日

読んでミール?vol.6 〜春〜

皆さま、こんにちは。

今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第6弾をお届けします。

テーマは「春」。このところは新型コロナウイルスの感染拡大におびえて心身縮まる思いですが、一冊の本のなかへ旅して小さな楽しみ、救いや支えを見つけてみてはいかがでしょうか。

今回もブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。

第6弾「読んでミール?」の始まり、はじまり。

 

Book Talker Naomi***

 

「春」と言えば「桜」ですね。桜にまつわる3作を選んでみました。

①辻村深月著
『ツナグ 想い人の心得』(2019)新潮社

以前のブックトーク、テーマ「人とのつながり」でご紹介した「ツナグ」という本、これは最近出版されたその続編です。
一生に一度だけの死者との再会を叶える使者「ツナグ」を引き継いだ歩美の7年後の話です。
待望の続編は私なりに色々予想していましたが、それを軽く超える驚きと感動の話ばかりです。その中でも今回副題になっている「想い人の心得」の話は、とても心に染みる秀作だと思います。
それは断られても断られても一人の死者への面会の依頼を繰り返す蜂谷という人の話です。
奉公に上がった先のお嬢様で重い喘息を患って16才で亡くなった絢子さま。
桜が好きで毎年春を待ちわびていたお嬢様に桜を見せたくて、蜂谷は40代から何度も依頼を続け、命も尽きようとしている85才でやっと会う事が叶う。
そして、美しくも気が強い絢子が桜を見て発した素直で可憐なため息…。
想い人が幸せな気持ちになることこそが、自分の幸せという究極の「想い人の心得」を学びました。

 

藤沢周平著
『山桜』 新潮文庫『時雨みち』(1984)に収録

この作品は藤沢周平の短編です。
ひと枝の山桜が縁で知りあった野江と弥一郎。野江にとって弥一郎は以前再婚相手にと持ち込まれた中の1人だった。婚家で辛い思いをしていた野江にとっては「もっと別な道があったのに…」と思わずにはいられない。
それが正義の為に刀をふるって捕まった弥一郎の話を発端に離縁する事になり…別な道へと歩きはじめる野江。
田中麗奈と東山紀之出演で映画にもなり、山桜のとても美しい映像が印象的に映し出されたのが目に焼きついています。
はかなげに見えて凛とした美しさを持つ山桜のような野江を応援したいです。

 

須賀しのぶ著
『また、桜の国で』(2016)祥伝社

1938年ポーランドの日本大使館に着任した外務書記生の棚倉慎の話です。
ナチスドイツ侵攻の緊張が高まる中、戦争回避にむけ奔走するも戦争勃発。
ロシア人の父と日本人の母を持つ慎は、見た目は日本人には見えない日本人。
その慎とドイツ生まれのユダヤ系ポーランド人、シベリア生まれのアメリカに国籍を持つポーランド人という奇妙な組み合わせの3人はドイツ軍が迫る中を逃げていた。
絶体絶命の中、2人を逃す為にオトリになろうとする慎。その時に3人で最後に交わした約束が「いつか必ず、3人で日本の桜を見よう」です。
平和の象徴のような美しい日本の桜。
それを夢見た若者たちの姿に心を揺さぶられます。
今の日本はコロナウイルスの影響でゆっくりお花見も出来ない状況ですが…来年までには平和な日常を取り戻し、美しい桜の下で楽しく語らう事を夢みながら今を頑張っていきたいですね。
桜にまつわる小説でも読みながら…。

 

Book Talker  Chie***

タイトルに「春」が入っている本を選んでみました!

アガサ・クリスティー著

『春にして君を離れ』(1973)ハヤカワ文庫

ミステリー作家として有名なアガサ・クリスティーが1944年にメアリ・ウェストマコットの名前で発表した作品で、非ミステリーに分類される作品のうちの一つ。あとがきによると、この話のテーマはクリスティーが何年もの間こころのなかで追い続けてきたもので、いざ取りかかると一週間で書き上げたと述べているのも興味深いところです。

主人公は弁護士をしている優しい夫と一男二女に恵まれ、良き妻、良き母として生きてきたと自負する女性ジョーン。結婚している二女の見舞いのために訪れたバグダットからイギリスへと帰る旅の途中で物語は始まります。イラクの宿泊所で足止めになりどこへも行けなくなった彼女は、これまでの自分を家族との関係から考え直していき・・・。再会した旧友のブランチとの会話が重要な役割となり、殺人も誘拐も起きませんが、どこか謎解きのような流れも感じます。ちなみに原題はAbsent in the Springで、シェイクスピアのソネット(十四行詩)の一節、From you have I been absent in the springからとられています。邦題は訳者の中村妙子さんによるもの。美しいタイトルに惹かれた人はぜひ。読み進めると、ある意味、ホラーかもしれませんけれど!

 

ヘルマン・ヘッセ著

『春の嵐 ゲルトルート』(1950)新潮文庫

青春時代、ヘルマン・ヘッセの作品にのめり込んだ時期がありました。ヘッセといえば『車輪の下』や『デミアン』が有名ですが、私の場合は『春の嵐』がとくに好きで持ち歩くほどでした。なぜでしょう?その疑問と「春」のお題を胸にストーリーを紐解いてみるのも今の自分にとって大切なことかもしれません(これから再読します・・すみません)。

主人公は若い時に無茶をして身体障害を持ったクーン。音楽の道を志すなかで、友人のムオトというオペラ歌手、そしてクーンが愛したゲルトルートという女性(のちにムオトと結婚する)との三角関係に苦しみます。

春の風は優しい風ばかりではありません。春一番は「チコちゃんに叱られる」によれば、死を招くほどの突風。とすれば、春の嵐とは?

海外では、主人公の想い人ゲルトルートが表題になっているそうです。

 

山本健吉編

『日本の名随筆17  春』(1984)作品社

作品社のシリーズ「日本の名随筆」を揃えるのが夢で、毎月2冊ずつ、時に古本屋で見つけたものも含めてコツコツ買い揃えていきました。100冊揃ったときの感激は今でも忘れられません。

折々にテーマごとに編集された名随筆を楽しんでいるのですが、その17番目のテーマが「春」。ところが今回開いてみたら新品同様の綺麗さに驚きました。つまり揃えたことに満足して「春」は未開封でした(笑)。

でもやはり、名随筆。どのページを開いても素敵な文章に出会えます。〈新年〉と〈春〉の章があり、〈春〉には串田孫一、篠田桃紅、河井寛次郎、中村汀女、井伏鱒二、森茉莉など30数名の書き手の名前が並びます。

ちなみに本の冒頭には詩(山村暮鳥作)が・・・。

いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな・・・。

いちめんのなのはな、という9文字の行に埋もれるようにして入っている言葉は・・・。かすかなるむぎぶえ、ひばりのおしゃべり、やめるはひるのつき。

春の気配を、ひらがなにみちた言葉の草原で味わえます。

 

(スタッフN&C)

 

 

 

 

 

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