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2021 年 10 月 18 日

読んでミール?vol.12 〜味〜

皆さま、こんにちは。

今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第12回をお届けします。五感につながる「一文字」テーマシリーズの3回目!「音」「色」につづき、今回は「味」をテーマお届けします。食欲の秋であり、読書の秋でもあり。どちらも満たす「味」なひとときにつながればうれしく思います。

今回も、ブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。

第12回「読んでミール?」の始まり、はじまり。

 

Book Talker Naomi***

1     はしもと みつお 画
大石  けんいち   作  (1巻)
鍋島 雅治         作  (2〜21巻)
九和  かずと       作  (21~42巻)

『築地魚河岸三代目』(2000年~2015 年)全42巻 小学館

この作品は「ビックコミック」という青年漫画誌に連載されていたものをコミックス(単行本)にしたものです。
また2008年には映画にもなっています。

元銀行員という素人でありながら妻の実家である築地の魚河岸の世界に飛び込んた主人公が三代目として認められるまでを描いています。
先ずこの主人公の赤木旬太郎は無類の食いしん坊でおまけにどんな繊細な味も感じられるスゴイ舌を持っています。
そして美味しい物を食べる為にはどんな努力もいとわす、知識を得るためには日本中どこへでも飛んでいく行動力もあります。
この本の中ではその回ごとにさまざまなな魚を扱っていて、その生態や特徴、扱い方や料理法などが詳しく載っていますので、魚好きの方は必見です。
食欲がそそられる事間違いなしです。

 

2     加藤 シゲアキ 著

『オルタネート』(2020年)新潮社
.
第42回 吉川英治文学新人賞受賞
第164回 直木賞候補
2021年 本屋大賞第8位
第8回 高校生直木賞受賞

作者は現役アイドルでこれまで何冊か書いて話題になっていましたが、始めは若い人向けの話だろうと実はあまり期待していませんでした。
でも「オルタネート」と呼ばれる高校生限定のマッチングアプリという設定は古い世代にも分かりやすく書かれていて、何より登場する若い人達の一生懸命な姿にとても共感をおぼえました。
そしてこの本の中で重要な要素をしめるのが「ワンポーション」という高校生の料理コンテストです。
ずっと昔にテレビで「料理の鉄人」というのがありましたが、それと同じように決められた食材を使って時間内にどんな料理を作るかで勝敗が決まります。
始めの書類選考と予選は食材とテーマが先に発表されているので、前もって考えたり研究する時間がありますが、本選に入るとその場での食材・テーマの発表で、制限時間の中で考え作り上げなければなりません。そこでモノを言うのが、これまで培ってきた知識や技術。そして味の記憶です。
主人公も子供の頃の記憶を元に料理を作り出します。
さあ結果はどうなるでしょう?

 

3     小川   糸 著

『ライオンのおやつ』(2019年)ポプラ社

2020年  本屋大賞第2位
2021年6月ドラマ放映(NHK)

この作品は美しい海にかこまれた瀬戸内の島にあるホスピスのお話です。
「ライオンの家」と呼ばれるその施設では余命宣告を受けた人たちが最期の時を穏やかに過ごしています。
そこでは変化に富んだ朝食のおかゆなど、毎日が楽しみになる身体に優しく美味しい食事が登場します。
そして最大のお楽しみは毎週日曜日におこなう「入居者がもう一度食べたい思い出のおやつの時間」です。
美味しい記憶というのはやはり幸せな記憶とセットになっていると思います。
たとえ高価なものではなくても「大好きな人と楽しく食べた」とか「大切な人の為に心を込めて作った」というエッセンスで例えようもないくらい美味しいおやつになるのではないかと思います。
主人公の30代の女性雫(しずく)をはじめ、小学生の女の子、元喫茶店のマスター、元有名作詞家、少し痴呆気味のシスターなど年齢も経験も様々な人たちが、一緒におやつを味わいながら、その人の思い出を共有し、その人の人生を一緒に振り返るそれは本当に素敵な時間です。
あなたが人生の最期に食べたいおやつは何ですか?

 

 

Book Talker  Chie***

 

1 平松洋子 著

『ひとりひとりの味』(2007)理論社

グルメではなくても「味」がテーマとなると、とても悩ましく、親しみと憧れが混じり合うこのテーマは深い!とつくづく思った次第。ということで、まず1冊目は食べ物のエッセイが本当に楽しい平松洋子さんの作品から。

この本は、味覚の勝負は15歳から!と帯のキャッチコピーにもあるように、若い人向けに書かれています。けれどもどこを読んでも、大人ならきっと誰しも、うんうん、そうそう、その通り!と唸ることばかり。例えば、この一文はどうでしょう!「これまた昭和のころ、内田百間(ひゃっけん)というたいそう食いしん坊の作家がいました。ガンコで有名なそのおじいさん作家は、つねづねこんなふうに書いていました。『おなかが空いているのは私のいちばん好きな状態である』 それはどうしてかというと、空腹に耐えながら、ひたすら晩ごはんを楽しみにする。そうするとこのうえない幸福に浸れるのですって。すごい。さすがガンコ者。あっぱれな食い意地です!」百間先生にも当然若い日はあったはずですが、おじいちゃん作家と位置付けるその明るさ。たしかに気骨ある食いしん坊の老作家、内田百間先生の本まで読みたくなる味わいが、平松さんの名文には潜んでいます(笑)。

またエピソードもぎっしりで楽しく、例えば、よそんちのお味噌汁を、理由はないけど飲めないという小学生の話も面白い。「おめえよう、幼稚園児かよ。味噌汁ぐらいで甘えてんじゃねえぞ」とからかう同級生に対して、クールな学級委員長がこういいます。「ほっとけよ。こいつだって、ほんとにハラ減ったら贅沢言ってられねえから」。これは百間先生と同様というより同等、堂々の本筋でしょう。

この本は、味の世界の広さ、深さ、可笑しさのあれこれを、身近だった風景とともに伝えつつ、日々、好きな味にどんなに魅了されているかを私たちに教えてくれます。ちなみに著者の平松さんは幼少の頃から台所が大好きで、ある夏休み、台所に勉強机を移動させてず〜っと居座ったそう。音、匂い、たたずまい、もっとも釘付けになるのはお母さんの仕事ぶり・・台所のすべてが好きな人の文章はおいしいものへの愛でいっぱい。その愛は無限でやさしい、と思います。

 

2 銀座千疋屋 監修

『くらしのくだもの12か月』(2014)朝日新聞出版

何回も買っているのに、なぜか手元に残らない本というのはありませんか?ふと思いついて、自分の書棚からプレゼントしたくなる・・・そんな本の一冊が、私の場合、「くらしのくだもの12か月」です。果物の名店、銀座千疋屋監修の本ですから、フルーツのウンチクたっぷりで果物写真の美しさにもうっとり。さらに素敵なのは、いちごや枇杷、文旦といった瑞々しい色とやさしい形の果実が表現されている写真に、味わいの余韻が広がるような俳句を月ごとに呼応させていること。綺麗な果実の一つひとつを、写真と言葉の両方で堪能できるのです。

食べたことのあるありふれた果物も、切り取る視線が違えば新鮮に感じられ、その果汁や食感の記憶を辿り直しては、次の季節は必ず味わいたいと楽しみがふくらみます。金子兜太さん、鷹羽狩行さん、中村草田男さん、長谷川櫂さん、稲畑汀子さんら著名な俳人の作が並び、17音に包まれ、そして開かれた光景や思いは、いかにもふくよかです。

林檎のおいしくなる季節、11月の句をご紹介しましょう。「林檎の木ゆさぶりやまず逢いたきとき/寺山修司」コロナの収束まで、逢える・逢えないの心の揺れも、林檎の酸味と甘味がやわらげてくれるといいですね。

ちなみに、この本。私は、食が細くなっておられる方へのお見舞いにお持ちしたこともあります。何を持っていったらその方の慰めや励ましになるのかしらと悩む時の贈り物として、頭のかたすみにそっと置いておくと良い本のような気がします。

 

3 川勝里美・吉本直子編

『シネマ厨房の鍵貸します』(1996)映像文化センター

小説や物語のなかに出てくるお菓子や豪華なメニューにときめくように、映画ならなおさら!ビジュアル付きで「食」のシーンやセリフに心奪われますね。この本は副題に「映画に出てくる料理を作る本」とある通り、54作品の国内外の映画紹介とともに、魅力的な食べ物や飲み物のレシピも数多く付いています。

たとえばダスティン・ホフマン主演の『クレイマー・クレイマー』(1979)ではダスティン・ホフマン演じる父と幼い息子ビリーがつくるフレンチトーストに注目しています。映画では、妻に家出され、それまで家事や育児に協力的でなかった父が息子にせがまれて滅茶苦茶の手振りでフレンチトーストをつくるシーンが冒頭近くにあり、やがて終盤、父と息子の別れが近づいた頃に再び朝食のために手慣れた様子でフレンチトーストをつくるという名シーンへとつながります。言葉よりも雄弁に語りかけるフレンチトーストはこの映画のなかの重要なモチーフになっていて、キッチンに腰掛けて父のフレンチトーストが出来上がるのを待つ息子のけなげな姿は忘れられません。

もう一つ紹介したいのはデンマーク映画の『バベットの晩餐会』(1987)。家政婦バベットが繰り出す手の込んだ料理の数々が、清貧に暮らす村の人々の心をじわじわととりこにしていく場面は息をのむほど。元々はパリの名店のシェフだったバベットが偶然当たった祖国フランスの宝くじの賞金をすべて注ぎ込み食材を購入。その力量を余すところなく発揮して作り出す味わいが、頑なで心を閉ざしがちな村人の舌と口、胃袋、やがて心まで溶かしていくのです。もちろん見ている私たちも、脳がおいしいものを味わう喜びに満ち溢れてきます。ああ。

さて、めくるめく料理のうち、超豪華なブリニス(小麦粉とそば粉を混ぜて焼いた小さなパンケーキ)を、本では庶民的にアレンジしたレシピにして紹介しています。フェルメールの絵画のように静謐で厳かな雰囲気もこの映画の魅力で、食欲とアートの秋にもぴったりです(アマゾンプライムに加入している方は、今、無料で視聴できますよ!)あれ、映画紹介みたいになってしまいました(笑)。

ちなみに『バベットの晩餐会』については、原作者アイザック・ディネーセンの本もぜひ。映画公開当時に出版された本は岸田今日子さん訳。映画解説もありファン必携の書です!★アイザック・ディネーセン『バベットの晩餐会』(1989)シネセゾン

 

写真はミール1階の打ち合わせスペースにて。ミールは所長をはじめ、みんな紅茶党!

 

(スタッフN&C)

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