ウカンムリ日記
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2018 年4月に守富環境工学総合研究所を設立後の4年間,「一緒に楽しく」を合言葉にお集まりいただいた皆様と充実した時間を共有させていただきました。

後半はコロナ禍もあり,「一緒に楽しく」は仮想空間での時間共有となりましたが,大きな一歩を踏み出せたと思っています。

ひとつはリサイクル炭素繊維の用途に関わる「不織布」の製作と評価及び「撚糸と編組」の試作であり,二つ目はアカデミックストリートに代わるアートウォール構想。

相変わらず国や近郊自治体の審議会や委員会への協力要請も多く,数えてみると10以上もありましたが,Web会議が主流となり,出張移動時間がなくなり,MEELでの仕事に集中できたことは幸いしました。

その一方で,請負った仕事ができるよう手狭の「第1事務所」4階とは別に夢工房の実験室として「第2事務所」を併設してきましたが,パッタリと請負仕事がなくなるとともに,来客もなくなったこともあり,会議室仕様としていた第1事務所は閉鎖し,事務室と実験室だけの第2事務所に統合することにしました。

4年の間,外壁を含めてデザイン事務所としても親しんで来た第1事務所はそのよさを理解していただける方に引き継いでいただくこととし,MEELとしては,当面,リサイクル炭素繊維の撚糸と編組の試作に集中しようと考えています。

まだ,具体的な請負案件はありませんが,必ず必要となる技術だと信じています。関心ある方はご連絡下さい。皆様の協力で進展することを祈念しています。

 

守富環境工学総合研究所 所長 守富寛

2021 年 10 月 18 日

読んでミール?vol.12 〜味〜

皆さま、こんにちは。

今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第12回をお届けします。五感につながる「一文字」テーマシリーズの3回目!「音」「色」につづき、今回は「味」をテーマお届けします。食欲の秋であり、読書の秋でもあり。どちらも満たす「味」なひとときにつながればうれしく思います。

今回も、ブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。

第12回「読んでミール?」の始まり、はじまり。

 

Book Talker Naomi***

1     はしもと みつお 画
大石  けんいち   作  (1巻)
鍋島 雅治         作  (2〜21巻)
九和  かずと       作  (21~42巻)

『築地魚河岸三代目』(2000年~2015 年)全42巻 小学館

この作品は「ビックコミック」という青年漫画誌に連載されていたものをコミックス(単行本)にしたものです。
また2008年には映画にもなっています。

元銀行員という素人でありながら妻の実家である築地の魚河岸の世界に飛び込んた主人公が三代目として認められるまでを描いています。
先ずこの主人公の赤木旬太郎は無類の食いしん坊でおまけにどんな繊細な味も感じられるスゴイ舌を持っています。
そして美味しい物を食べる為にはどんな努力もいとわす、知識を得るためには日本中どこへでも飛んでいく行動力もあります。
この本の中ではその回ごとにさまざまなな魚を扱っていて、その生態や特徴、扱い方や料理法などが詳しく載っていますので、魚好きの方は必見です。
食欲がそそられる事間違いなしです。

 

2     加藤 シゲアキ 著

『オルタネート』(2020年)新潮社
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第42回 吉川英治文学新人賞受賞
第164回 直木賞候補
2021年 本屋大賞第8位
第8回 高校生直木賞受賞

作者は現役アイドルでこれまで何冊か書いて話題になっていましたが、始めは若い人向けの話だろうと実はあまり期待していませんでした。
でも「オルタネート」と呼ばれる高校生限定のマッチングアプリという設定は古い世代にも分かりやすく書かれていて、何より登場する若い人達の一生懸命な姿にとても共感をおぼえました。
そしてこの本の中で重要な要素をしめるのが「ワンポーション」という高校生の料理コンテストです。
ずっと昔にテレビで「料理の鉄人」というのがありましたが、それと同じように決められた食材を使って時間内にどんな料理を作るかで勝敗が決まります。
始めの書類選考と予選は食材とテーマが先に発表されているので、前もって考えたり研究する時間がありますが、本選に入るとその場での食材・テーマの発表で、制限時間の中で考え作り上げなければなりません。そこでモノを言うのが、これまで培ってきた知識や技術。そして味の記憶です。
主人公も子供の頃の記憶を元に料理を作り出します。
さあ結果はどうなるでしょう?

 

3     小川   糸 著

『ライオンのおやつ』(2019年)ポプラ社

2020年  本屋大賞第2位
2021年6月ドラマ放映(NHK)

この作品は美しい海にかこまれた瀬戸内の島にあるホスピスのお話です。
「ライオンの家」と呼ばれるその施設では余命宣告を受けた人たちが最期の時を穏やかに過ごしています。
そこでは変化に富んだ朝食のおかゆなど、毎日が楽しみになる身体に優しく美味しい食事が登場します。
そして最大のお楽しみは毎週日曜日におこなう「入居者がもう一度食べたい思い出のおやつの時間」です。
美味しい記憶というのはやはり幸せな記憶とセットになっていると思います。
たとえ高価なものではなくても「大好きな人と楽しく食べた」とか「大切な人の為に心を込めて作った」というエッセンスで例えようもないくらい美味しいおやつになるのではないかと思います。
主人公の30代の女性雫(しずく)をはじめ、小学生の女の子、元喫茶店のマスター、元有名作詞家、少し痴呆気味のシスターなど年齢も経験も様々な人たちが、一緒におやつを味わいながら、その人の思い出を共有し、その人の人生を一緒に振り返るそれは本当に素敵な時間です。
あなたが人生の最期に食べたいおやつは何ですか?

 

 

Book Talker  Chie***

 

1 平松洋子 著

『ひとりひとりの味』(2007)理論社

グルメではなくても「味」がテーマとなると、とても悩ましく、親しみと憧れが混じり合うこのテーマは深い!とつくづく思った次第。ということで、まず1冊目は食べ物のエッセイが本当に楽しい平松洋子さんの作品から。

この本は、味覚の勝負は15歳から!と帯のキャッチコピーにもあるように、若い人向けに書かれています。けれどもどこを読んでも、大人ならきっと誰しも、うんうん、そうそう、その通り!と唸ることばかり。例えば、この一文はどうでしょう!「これまた昭和のころ、内田百間(ひゃっけん)というたいそう食いしん坊の作家がいました。ガンコで有名なそのおじいさん作家は、つねづねこんなふうに書いていました。『おなかが空いているのは私のいちばん好きな状態である』 それはどうしてかというと、空腹に耐えながら、ひたすら晩ごはんを楽しみにする。そうするとこのうえない幸福に浸れるのですって。すごい。さすがガンコ者。あっぱれな食い意地です!」百間先生にも当然若い日はあったはずですが、おじいちゃん作家と位置付けるその明るさ。たしかに気骨ある食いしん坊の老作家、内田百間先生の本まで読みたくなる味わいが、平松さんの名文には潜んでいます(笑)。

またエピソードもぎっしりで楽しく、例えば、よそんちのお味噌汁を、理由はないけど飲めないという小学生の話も面白い。「おめえよう、幼稚園児かよ。味噌汁ぐらいで甘えてんじゃねえぞ」とからかう同級生に対して、クールな学級委員長がこういいます。「ほっとけよ。こいつだって、ほんとにハラ減ったら贅沢言ってられねえから」。これは百間先生と同様というより同等、堂々の本筋でしょう。

この本は、味の世界の広さ、深さ、可笑しさのあれこれを、身近だった風景とともに伝えつつ、日々、好きな味にどんなに魅了されているかを私たちに教えてくれます。ちなみに著者の平松さんは幼少の頃から台所が大好きで、ある夏休み、台所に勉強机を移動させてず〜っと居座ったそう。音、匂い、たたずまい、もっとも釘付けになるのはお母さんの仕事ぶり・・台所のすべてが好きな人の文章はおいしいものへの愛でいっぱい。その愛は無限でやさしい、と思います。

 

2 銀座千疋屋 監修

『くらしのくだもの12か月』(2014)朝日新聞出版

何回も買っているのに、なぜか手元に残らない本というのはありませんか?ふと思いついて、自分の書棚からプレゼントしたくなる・・・そんな本の一冊が、私の場合、「くらしのくだもの12か月」です。果物の名店、銀座千疋屋監修の本ですから、フルーツのウンチクたっぷりで果物写真の美しさにもうっとり。さらに素敵なのは、いちごや枇杷、文旦といった瑞々しい色とやさしい形の果実が表現されている写真に、味わいの余韻が広がるような俳句を月ごとに呼応させていること。綺麗な果実の一つひとつを、写真と言葉の両方で堪能できるのです。

食べたことのあるありふれた果物も、切り取る視線が違えば新鮮に感じられ、その果汁や食感の記憶を辿り直しては、次の季節は必ず味わいたいと楽しみがふくらみます。金子兜太さん、鷹羽狩行さん、中村草田男さん、長谷川櫂さん、稲畑汀子さんら著名な俳人の作が並び、17音に包まれ、そして開かれた光景や思いは、いかにもふくよかです。

林檎のおいしくなる季節、11月の句をご紹介しましょう。「林檎の木ゆさぶりやまず逢いたきとき/寺山修司」コロナの収束まで、逢える・逢えないの心の揺れも、林檎の酸味と甘味がやわらげてくれるといいですね。

ちなみに、この本。私は、食が細くなっておられる方へのお見舞いにお持ちしたこともあります。何を持っていったらその方の慰めや励ましになるのかしらと悩む時の贈り物として、頭のかたすみにそっと置いておくと良い本のような気がします。

 

3 川勝里美・吉本直子編

『シネマ厨房の鍵貸します』(1996)映像文化センター

小説や物語のなかに出てくるお菓子や豪華なメニューにときめくように、映画ならなおさら!ビジュアル付きで「食」のシーンやセリフに心奪われますね。この本は副題に「映画に出てくる料理を作る本」とある通り、54作品の国内外の映画紹介とともに、魅力的な食べ物や飲み物のレシピも数多く付いています。

たとえばダスティン・ホフマン主演の『クレイマー・クレイマー』(1979)ではダスティン・ホフマン演じる父と幼い息子ビリーがつくるフレンチトーストに注目しています。映画では、妻に家出され、それまで家事や育児に協力的でなかった父が息子にせがまれて滅茶苦茶の手振りでフレンチトーストをつくるシーンが冒頭近くにあり、やがて終盤、父と息子の別れが近づいた頃に再び朝食のために手慣れた様子でフレンチトーストをつくるという名シーンへとつながります。言葉よりも雄弁に語りかけるフレンチトーストはこの映画のなかの重要なモチーフになっていて、キッチンに腰掛けて父のフレンチトーストが出来上がるのを待つ息子のけなげな姿は忘れられません。

もう一つ紹介したいのはデンマーク映画の『バベットの晩餐会』(1987)。家政婦バベットが繰り出す手の込んだ料理の数々が、清貧に暮らす村の人々の心をじわじわととりこにしていく場面は息をのむほど。元々はパリの名店のシェフだったバベットが偶然当たった祖国フランスの宝くじの賞金をすべて注ぎ込み食材を購入。その力量を余すところなく発揮して作り出す味わいが、頑なで心を閉ざしがちな村人の舌と口、胃袋、やがて心まで溶かしていくのです。もちろん見ている私たちも、脳がおいしいものを味わう喜びに満ち溢れてきます。ああ。

さて、めくるめく料理のうち、超豪華なブリニス(小麦粉とそば粉を混ぜて焼いた小さなパンケーキ)を、本では庶民的にアレンジしたレシピにして紹介しています。フェルメールの絵画のように静謐で厳かな雰囲気もこの映画の魅力で、食欲とアートの秋にもぴったりです(アマゾンプライムに加入している方は、今、無料で視聴できますよ!)あれ、映画紹介みたいになってしまいました(笑)。

ちなみに『バベットの晩餐会』については、原作者アイザック・ディネーセンの本もぜひ。映画公開当時に出版された本は岸田今日子さん訳。映画解説もありファン必携の書です!★アイザック・ディネーセン『バベットの晩餐会』(1989)シネセゾン

 

写真はミール1階の打ち合わせスペースにて。ミールは所長をはじめ、みんな紅茶党!

 

(スタッフN&C)

皆さま、こんにちは。オリンピックでは日々熱戦が続いていますね。メダルの色はもちろん、選手の頑張りも、目に眩しい夏です。

今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第11回をお届けします。五感につながる「一文字」テーマシリーズ!前回の「音」につづき、「色」をお届けします。今回も、ブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。

第11回「読んでミール?」の始まり、はじまり。

 

 

Book Talker Naomi***

 

①レオ・レオニ 著
『あおくんときいろちゃん』(1959)
至光社ブッククラブ国際版絵本

古典とも言われるこの絵本はレオ・レオニが孫たちにお話をせがまれた時に生まれた作品です。
単純な絵が小さい子供にも分かりやすく、あおときいろが合わさりみどりになるという内容は融合という深い意味で大人にも考えさせられる作品だと思います。
今回の「色」というお題で本を探した時に、同じレオ・レオニの作品でカメレオンが自分らしさを探す「じぶんだけのいろ」と迷ったのですが、単純な絵の中にも色々な感情を表現している「あおくんときいろちゃん」はやはり名作だと思いこちらを選びました。
[参考]レオ・レオニ著
「じぶんだけのいろ」(1975)好学社

 

②砥上裕將(とがみひろまさ) 著
『線は、僕を描く』(2019)講談社
☆第59回メフィスト賞受賞作

この作品は「水墨画」という墨の線だけで描く芸術が題材になっています。いわば黒だけの世界の作品ですが、本書をあえて選んだのは黒一色といいながら、その濃淡やさまざま技法を使って描き出す絵の奥の深さ、そしてその絵の中に色を感じ、魂を感じる内容に心惹かれたからです。
実際に私が水墨画を見てもそれを感じる事が出来るかと言えば難しいかもしれませんが、ただそういう世界があると言う事を知るきっかけとなり、今度じっくりと水墨画を見に行きたいと思いました。

 

③ブレイディみかこ 著
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(2019)新潮社
☆本屋大賞2019ノンフィクション本大賞受賞作
☆第73回毎日出版文化賞特別賞受賞
☆第7回ブクログ大賞(エッセイ・ノンフィクション部門)

これは英国に住むアイルランド人の父と日本人の母を持つ少年の中学校生活を、母であるブレイディみかこさんの目線を通して書かれた作品です。
題名にあるホワイトとイエローは肌の色をさしています。
肌の色については差別問題がはらんでいて、有名なところでは絶版と復刊を繰り返した「ちびくろサンボ」という絵本があり、また差別用語に繋がるということでクレヨンの「肌色」は2005年には完全に無くなり「薄橙」又は「ペールオレンジ」と呼ばれるようになりました。
肌の色や国籍、貧富の差などの色々な問題を、時に迷いながらも自分の力で解決していく息子の姿に「子供ってすごいな!」と思わされます。
親というのは心配のあまり、とかく子供に干渉したり指示を与えたりしがちですが、ブレイディみかこさんの一緒に考え悩み、最終的には子供が決めた事を認めて応援するというスタンスがとても良いと思います。
子供の持つ無限の可能性と、親としての在り方を教えてくれる作品のような気がしました。
題名の「ブルー」は日本でも正式な英語の意味でも使われる「気持ちがふさぎ込んでいる」「憂鬱」をさしているかと思いますが、最後のページで息子が、今は「ブルー」ではなく「ぼくはイエローでホワイトでときどきグリーン」と言っている言葉がとても印象的でした。
ちなみにこの「グリーン」という英語の意味には「環境問題」とか「未熟」「経験が足りない」などの意味があるそうです。
今は「グリーン」という彼がこれからどんな色に変わっていくか…いち読者としてもとても楽しみです。

 

Book Talker  Chie***

 

1 堀川恵子 著

『教誨師』(2014)講談社

☆第一回城山三郎賞受賞

教誨師(きょうかいし)という言葉をご存じでしょうか。広辞苑には「教誨」の意味として(1)教えさとすこと。(2)刑務所で受刑者に対して行う徳性の育成を目的とする教育活動。宗教教誨に限らない。「――師」とあります。

本書の“教誨師”は、拘置所で死刑囚と唯一面談できる民間人として、無報酬で死刑囚と向き合う宗教者であり、その苦悩や葛藤を描いています。死刑囚と対話し、死刑囚からの問に答え、さらに刑の執行にも立ち会うという想像を絶する困難な役割を半世紀もの間続けた広島出身の浄土真宗の僧侶、渡邉普相の告白を中心に、ノンフィクション作家として名高い堀川恵子によって本書はまとめられました。

読み進めるのは恐ろしいけれども、読まなくてはいけないと駆り立てられるのは執筆者の筆力と、やはり教誨師である渡邉普相の人間力に惹かれるからだろうと思います。渡邉の没後に出版する、という渡邉との約束通り、この世に送り出されました。

「色」というテーマで思いを巡らせたときに、この本には色を感じる描写がほとんどないことに気づきました。死刑囚と語り合う拘置所の教誨室や、死刑執行の場が無彩色の世界観だからでしょうか。渡邉が時折、死刑囚たちに差し入れる靴下には、明るい気持ちになれるようにと派手な色を選ぶこともあるものの、その色が何かのアクセントになっているとは感じられません。彩りの極端な少なさが、生きるとは死ぬとはという根源的な問を鮮明にしているようにも思えるほどです。

そんななかで、まさに一瞬、色彩が走馬灯のようにイキイキと流れ出すのは、拘置所から刑場へと移送されるバスの車窓です。すこし本文を引きます。「格子越しに窓の外を見つめる山本(注:死刑囚)にも、言葉はなかった。車窓には、死刑囚に対しても、いささかの分けへだてなく穏やかな日常生活が広がっている。身体からはみだしそうな大きな赤いランドセルを背負った子どもたち、その傍らで花壇に水をやる主婦の姿、信号が変わる度、目の前をどっと横切るサラリーマンの一群。山本は、今生最後の風景をじっと目に焼き付けているようだった」。

娑婆の世界の色味をどれほど愛おしく感じただろうと思う場面です。重い内容の本ですが、いつか読んでみてください。

 

2 安房直子 著

『きつねの窓』『夕日の国』〜安房直子コレクションより〜

(2004)偕成社

安房直子さんは、50歳という若さでこの世を去った童話作家。幻想的で短いお話が多く、そのなかには色や香りが大切なモチーフとしてよく出てきます。

『きつねの窓』はある日、桔梗の花畑に迷い込んだ少年のお話で、彼はそこで出会ったきつねに、桔梗の花の汁で両手の親指と人差し指を青く染めてもらいます。その青く染まった4本の指をつかって菱形に窓をつくってのぞくと、会えないはずの人や光景が見えるのです。亡くなった妹や焼けてしまった家の様子に、指の窓さえ通せばまた会える。そんな喜びもつかのま、うっかりいつもの習慣で手を洗ってしまう・・。

コロナ禍のいま、うっかりではなく、すっかり手洗いが身についた私たち。でも、もしも桔梗の汁で染めた指があったなら、洗い流したとしても、温かな感触や記憶はそっと残るといいなあと思います。

『夕日の国』は、なわとびの紐にオレンジ色の液体をたらしてから飛ぶと、オレンジ色の風景が見えてきて、夕日の国へ行けるというお話です。安房直子さんのお話はあの世とこの世の境を行き来する時空旅行のようでもあり、どこか寂しさも漂うのですが、摩訶不思議な世界を素直に受け止めて、心にさーっと風を通してみたいような時には、さまざまな色がそっとその世界へ連れて行ってくれます。

もう一つ。私が一番好きなお話は『ハンカチの上の花畑』。ここでは小人にあげる小さなビーズの金色と、ハンカチの隅にある小さな刺繍のブルーが、ふたつの世界をつなぐ色として登場します。

ちなみに安房作品の紹介は「読んでミール」で2回目となりました(笑)。どうしても幼い時から好きな作家作品から離れられない私です。今回は、色のやさしさだけでなく、輝きや透明感が、安房作品の魅力を引き立てているような作品を挙げてみました。

 

3 山根京子著

『わさびの日本史』(2020)文一総合出版

☆第12回辻静雄食文化賞受賞

わさびが日本固有種で、日本に栽培起源があることを明らかにした研究者であり、自称「わさび応援隊長」の山根京子さん(岐阜大学准教授)による、まさにわさびづくしの一冊。栽培植物起源学という学問の道を行く山根先生は、「わさび」をテーマに、これまでに中国の奥地や日本全国300か所以上に現地調査されています。ちなみに栽培植物起源学とは山根先生の場合、現地調査、詳細なDNA分析、さらに文献や資料の研究によって、植物が野生植物から栽培植物になった場や時代、どんな民族によってなしえたかということを明らかにするのが目的。

さて、どこをとっても興味深い本書ですが、深いところは新聞各紙の書評を参考にしていただくとして、今回は「色」に注目してみましょう。わさびをイメージする色がキーカラーとなり、カバーや見返し、目次ページを彩っているのが印象的で、この色合いがわさびの世界へと入っていく扉です。そして中身に入っていくと、植物好きで歴史好き?の人にはワクワクしてくる章立てで、謎解きのような展開。巻末の歴史年表も面白く、読者も知らぬ間に、わさび愛に満ちていくという次第。わさびの魅力は香りやツンとした刺激を伴う味わい、そして清々しい色もその一つ。キーカラーが本書の濃い中身を引き立てるというのは、まさにわさびの本分ではないでしょうか!

ところで、デザイナーや印刷業の仕事に欠かせないアイテムとして、色見本というものがあります。DIC(旧社名・大日本インキ化学)の色見本「日本の伝統色」を見てみると、「山葵色(わさびいろ)DIC-N849」がちゃんとありました!私の手元にある古い色見本にはこんなコメントが添えられています。「山葵は清流にしか育たない。その根を食用に供するが、この色名が実際の色よりも青味にイメージされるのは、その育つ清らかな環境のせいか、またはその味の爽やかな辛みのせいかもしれない」。

なるほど!たしかに色見本の山葵色は青っぽいのです・・・。ちなみに『わさびの日本史』のカバー等に使われているわさび色は、この色見本で探すと「豌豆緑(えんどうみどり)DIC-N836」に近い・・・、でも、わさびを連想するのには絶妙な色味なんですよ(笑)。

(スタッフN & C)

写真はDICの色見本「日本の伝統色」。見本も本と考えると、面白い発見の宝庫です!

 

皆さま、こんにちは。ブログの更新の「間」があいてしまいました。コロナ禍からなかなか抜け出せない日々ですが、会えない時間も「愛」を育てられますように!!

さて、今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の記念すべき第10回をお届けします。「春・夏・秋・冬」をテーマにしたブックトークを終え、次なるテーマをどうしよう?どうする?と考えまして、「音・色・香・味・触れる」に決めました。そう五感がテーマです!

今回は「音」をテーマに、ブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。

第10回「読んでミール?」の始まり、はじまり。

 

Book Talker Naomi***

 

①恩田 陸  著
『蜜蜂と遠雷』(2016)幻冬舎

「音」というテーマを考えた時に1番初めに思い浮かんだのがこの作品でした。
この本を読んだ時、確かにピアノの音が聞こえたような気がしました。
何故だろうと検証してみますと、ピアノを弾くシーンの時、そのイメージを想像しやすい情景を文章で表現しているような気がしました。
確かに映画やドラマで使われた曲は、その曲を聞くだけで、その映像が浮かんできます。…ということは映像が鮮明に浮かぶと、曲が聞こえる(ような気がする)のかもしれません。言葉と音、そして映像。不思議なつながりですね。

この作品は有名ピアノコンクールに出場した4人の男女のお話です。
第1、第2、第3審査と進むと、最後の本選はオーケストラとの共演になります。
各審査は、それぞれに指定された中から自分で選んだ曲で構成していきますが、第2審査ではこのコンクールの為に作られた課題曲「春と修羅」があり、その後半に自分の自由な発想で弾く部分があって、作曲の力も試されます。
出場者が少しずつ落とされ、ピアノ演奏の精査がなされていく中で、各自の色々な思いが交差して、一緒にハラハラドキドキしながらラストまで一気に読んでしまいます。

なおこの作品は2019年に映画化され、その中では(想像では無い)本物の凄いピアノが聞けます。特に課題曲「春と修羅」は同じ曲とは思えないほどの各自のオリジナリティが出ています。(それぞれの役に合った有名ピアニストが影武者です)
またスピンオフ的作品「祝祭と予感」は2019年に出版され、知りたかった過去の話やその後のエピソードが明らかにされますので、合わせて読むと更に一層楽しめると思います。
(参考)「祝祭と予感」(2019)幻冬舎

 

② 宮下 奈都  著
『羊と鋼の森』(2015)文藝春秋

これは高校生の時に偶然見たピアノの調律に魅せられて、何のバックグラウンドも無いまま調律師を目指した少年の成長物語です。

ピアノというのは、森から切り出された木の枠の中で羊の毛で作られたハンマーが鋼の弦を叩いて音が出ます。それを調律師が色々な技を使って音階に作りあげます。
その基準音となる「ラ」の音は時代と共に変化して、モーツァルトの頃は422ヘルツだったのが戦前には435ヘルツ、そして今は440ヘルツが世界共通になりました。(因みに440ヘルツは赤ん坊の産声の高さです)
時代と共に少しずつ高くなるのは明るい音を必要として、求めるようになったからでしょうか。
そして調律師は弾く人の好みによって、音を高く響かせる事も、軽やかにする事も、重厚な音にする事も出来、ピアノコンクールでは必ず調律師が側にいて、ひとりひとりに合わせ、その都度調整している事は『蜜蜂と遠雷』でも出てきました。
ただ人の感性は色々で求める音を知るのは至難の業。迷う少年に、彼が調律師を目指すきっかけとなった師は「自分の理想とする音は小説家の原民喜(はらたみき)の文章の中にある」と語ってくれました。
「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少し甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」
理想の音を求めまだまだ修行が続く少年を心から応援したいと思います。

 

③ 町田 そのこ  著
『52ヘルツのクジラたち』(2020)
中央公論新社

クジラは10〜39ヘルツで鳴くが、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴くという世界で一頭だけのクジラが確認されています。たくさんの仲間がいるはずなのに、何も届かない。何も届けられない。そのため世界で一番孤独だと言われているクジラです。

聞き取れない52ヘルツの声を上げていた自分の声を聞き、救い出してくれた人…その大切な人の声に気付く事が出来ずに死なせてしまった事実に傷ついていた女性は、自分と同じように52ヘルツの声を上げている少年を助けようと動き始める。
この作品の中には虐待や育児放棄、そしてジェンダーやモラハラなど数々の問題が含まれています。
主人公は自分の辛い経験から少年の52ヘルツの声を聞くことが出来たのですが、このお話の中にはそういう経験が無くても一生懸命聞こうとし助けようと努力をする沢山の人達も描かれています。
52ヘルツの声は容易には聞こえないかもしれませんが…常に聞こうと努力する人でありたいと思います。
本作は「2021年本屋大賞」受賞作です。

 

Book Talker  Chie***

 

1 小泉文夫 著

『小泉文夫フィールドワーク 人はなぜ歌をうたうか』(1984)

「音」というテーマで思いを巡らせたときに思いついたのがこの本です。今から40年近く前の高校から大学生にかけての頃に小泉文夫さんという民族音楽研究者の存在を知りました。クラシックやジャズ、ロック、演歌といったジャンルの普段よく耳にする音楽からは離れて、もっと民族的といいますか土着的な音楽があるのだと先生の本をきっかけに気づいたわけです。それは音楽というよりも、音とかリズムといった原始的で根源的なものへの興味をゆっくりと掘り起こす旅をするかのような面白さで・・・印象深いのは、たとえばエスキモーの人たちのなかでもカリブーではなくクジラを食べる地域のエスキモーたちはリズム感が良いというエピソード。カリブーは一人でも狩りができるけれども、クジラは巨大で一人ではとても獲ることができず、しかもクジラを獲るチャンスは年に二回しかないという。つまりチームワークを整えなければ、村全体の半年分の食料や生活物資をまかなえないのです。そこで大勢で声を合わせ、リズムを合わせる練習をした。それが歌や太鼓だったという話です。これは生きるために拍子を揃えるという例の一つですが、ご存じのように太鼓の音は、伝達という意味からも生きていくのに重要な要素です。

小泉先生の興味の広がりはとめどなく、世界を駆け巡られました。現地へ行き、現地の人の歌や音を集め(録音して)、歴史を探り、「なぜ?」と考察する。その果てしないフィールドワークを文章に書き起こしてくださった労力は、56歳という若さで亡くなった先生の、まさに命を削っての作業だったのではとも思うのですが、きっと小泉先生ご自身は、この驚きや感動を独り占めしてはならぬと突き動かされてお書きになったのではと思います。世界や人類は多様であるということを「音」を通じて実感されたことが原動力であったのではないでしょうか。

昔、兼高かおるさんという女性が世界を飛び回る旅のテレビ番組がありました。インターネットもない時代に、ありとあらゆる世界の風景や人々、暮らしの音も届けてくれました。小泉先生の本も世界の多様を届ける貴重な記録であり道標であり続けると思います。

小泉文夫先生の著作としては『音のなかの文化』『呼吸する民族音楽』(ともに1983、青土社)もおすすめします!

 

2 村上春樹 著

『遠い太鼓』(1990)講談社

村上ファンのなかには、長編好き、短編好き、エッセイ好き、全部好きといろいろなタイプがいらっしゃると思います。私の場合はたぶん全部好きに入ると思いますが(笑)、「音」というテーマに照らし合わせたときに思い浮かんだのがこのタイトル名を持つエッセイ集です。『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』を執筆した頃、彼は日本では暮らしていませんでした。イタリアやギリシアなどヨーロッパにいたのです。その頃に綴った旅行記であり滞在記は、海外旅行に行けない今、異国の空気を感じるのにも良い本です。

今あらためて読み返すと、村上さんが日本を離れて執筆をしようと思った40歳の頃、精神的にクリアになれるところに身を置きたかったのではと感じます。頭のなかに蜂を飼っているらしく(それはおそらく耳鳴りのことと思います)、蜂のぶんぶん音も含め、さまざまな雑音にさいなまれる日々から解放されたかったのではと。村上さんのような人気作家でなくとも、いつもの音、絶え間なく続く音から逃れたい時はあります。音とは風景であり、環境であり、内的な思いの重なりから生まれる何かかもしれません。うるさく感じて離れたいと思うけれども常にともにある。そして、ある時、ふっと別の音にもひかれる。

この本はこのように始まります。

ある朝目が覚めて、ふと耳を澄ませると、何処か遠くから太鼓の音が聞こえてきた。その音を聞いているうちに、僕はどうしても長い旅に出たくなったのだ。

タイトルの「遠い太鼓」はトルコの古謡からとったものとか。音に誘われて旅に出る。それも人間らしい素朴な行いなのかもしれません。音の原始は、あるいは、音を求める原始は、生きているものがすべて持つ、脈動なのではと、私は勝手に想像しているのですが・・・。

 

3 ウィリアム・ブレイク作 池澤春菜・池澤夏樹 訳

『無垢の歌』(2021)毎日新聞出版

ウィリアム・ブレイク(1757〜1827)は産業革命期のロンドンに生きた詩人で画家、銅版画職人。自らの詩と彩色版画による幻想的な詩集をつくりました。また預言詩『ミルトン』に収められた詩「エルサレム」はイギリスの国家として歌われています。ブレイクの詩はさまざまな分野の作家に影響を与え、日本では柳宗悦、ノーベル賞作家の大江健三郎さんもその一人です。

さて、そのようなブレイクの詩は私には難しいのでは?と長年思っていたのですが、最近手にして感銘を受けたのが池澤春菜・池澤夏樹の訳によるこの本です。親子でもあるふたりがブレイクの詩の訳と解説を分担していて、その言葉がとてもやさしく美しく、調子や音色が素敵なのです。

ブレイクの詩(歌)には音と文字とその両方の美しさがあると、訳者の春菜さんはまえがきで綴っています。「ブレイクの言葉の中にある優しさ、愛おしさ、明るさや清らかさ、善きものに向かう心をこぼさずすくえるように」日本語にしたそうです。

思えば詩(歌)は音から生まれ、文字から生まれています。両者はきっと不可分の存在で、音の聞こえない人、文字の見えない人にも、その両方を届け合うことで、意味や情景、思いとなって膨らみ、詩が伝わるのかもしれないと思います。

池澤親子が訳者となって心をこめて届ける無垢の歌たち。ブレイクの音と文字の両方の良さをこぼさぬように、大切に私たちに渡してくれている気がします。

(スタッフN&C)

 

どこかから音が聞こえてきそう。風や雲の流れ、物語の言葉のなかに・・・。

皆さま、こんにちは。岐阜は青空がつづいて気持ちのよい日です。いかがお過ごしでしょうか。

さて、守富環境工学総合研究所(Meel:ミール)の南壁を含む、全長130メートル、高さ20メートルの岐阜問屋町二丁目協同組合の南壁が「ぎふアートウォール」としてお披露目となる機会、「ぎふアートウォール完成式」が今週3月27日(土)午後1時から開催されますのでお知らせいたします。

当日は関係者の皆さまもご列席される予定で、ご来賓の方々のスピーチ、空と雲のアートウォールの監修をされた古川秀昭先生(岐阜県美術館前館長、現在はOKBギャラリー館長)のコンセプトのお話などを聞くことができます。

そして完成式開催前のひとときを盛り上げるパフォーマンスも楽しみ!

12時20分頃からSJCジャズオーケストラの皆さんによる演奏、さらに、12時45分頃からキッズたちが空と雲のアートウォールを舞台背景に可愛いパフォーマンスを繰り広げてくれる予定です!ぜひパフォーマンス披露のタイミングからお立ち寄りください。

当日はアートウォール前の道路を使用させていただき完成式を行います。道路から見ていただいても、JR岐阜駅からのペデストリアンデッキ(歩行者の通行専用の高架高架歩道)から見ていただくのも楽しいのでは!と思います。

雨天の場合は岐阜問屋町二丁目アーケード内が会場となりますが・・・今日のように綺麗な春の空が広がっていることを願います!!

感染症対策(マスク着用&ソーシャルディスタンス)も忘れずお楽しみください!

 

【 守富所長テレビ出演のお知らせ】

ぎふアートウォール事業に関して新聞各紙、メディアに取材をしていただいておりまして、このたびテレビの放映時間が決まりましたのでお知らせいたします。ミールの守富所長も登場しますのでご覧くださいませ!

◎3月26日(金)午後6時30分〜 NHK「まるっとぎふ」

◎4月2日(金)午後6時〜(15分番組)ぎふチャン「あなたの街から岐阜市」

 

(スタッフC)

 

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