皆さま、こんにちは。守富環境工学総合研究所(Meel:ミール)の西壁を活用したアートウォール。その制作に取り組んでくださった3人のアーティストへのインタビュー、引き続き[後編]をお届けします。
◎法晃さんのお話を聞いて、アートウォールを通じて何かに気づいたり、人とつながったりしたらいいなと思いました。昨年皆さんが取り組まれた豊田市の保見団地での保見アートプロジェクト※1でもきっといろんな経験をされたことと思います。
法晃さん/保見団地のアートプロジェクトのときは半年くらい会議をしても何も決まらなかったので、話し合っているだけでなく、とにかく行動することでわかってくることがあるんじゃないかと気づきました。いかにして住民を巻き込むか、ですね。残念なこととしては保見団地ではせっかくのアートに上書きされてしまい、それをやった人が逮捕されるということも起きました。そのことは住民が通報した、ということでもあるんだろうなと想像するんですが、通報したということは、「残しておきたい絵」だったということなのかなぁとも思えるんです。それまでは落書きし放題の無法地帯といってもいい環境だったので。とはいえ、逮捕者が出てしまったというのは悲しい面もありますね。
壁と絵ということを考えると、そもそも落書きって何?という「問」が常にあります。その答えはとても難しい。動物のマーキングみたいなものかなとも思うんですけど(笑)。いずれにしても消す、残すという選択のときに、「残そうよ!」という絵だったらいいなと思いますけどね。
※1 外国籍の住民が半数以上を占める保見団地(愛知県豊田市)での取り組みで、アートを通じたワークショップを重ね、住民同士のコミュニケーションを図りながら活動。法晃さんがアートプロジェクトのプロデュースを担い、真允子さん、ヒロさんもアーティストとして参加。2020年3月29日、団地25棟1階の通称「憩いの場」の空間は、かつての落書きも一部生かしながら、画家やイラストレータによる鮮やかな絵に包まれて生まれ変わった。
(下の写真はアートプロジェクトをまとめた冊子より、法晃さん、真允子さん、ヒロさんのページ)
◎ますます深いお話です。真允子さんがアートウォールのような活動とつながったのはどういった経緯ですか?
真允子さん/私はもともと油絵をやっていて、家にこもってキャンバスに向かうというのが基本でしたし、今もそうです。でもしばらくの間、絵をやめていた時期があって、再開したときに東日本大震災が起きたことが大きな転機になりました。
どんな人もそうだったと思うんですけど、やりたいことが一瞬で無くなる、一瞬にして日本が暗くなるということを経験して・・・。それで日本を明るくするためには自分に何ができるか?と考えました。当時は子育ての最中だったし、ボランティアに行く時間もない。でも暗い日本が明るくなり元気になり復興にたどりつこうとしている時に、現地で関わることができなくても、私も地元で何かできないか?アートの力を注げないかなと思ったんですよ。うまく言えませんが、地域貢献として。
そんな頃に、それまで家でキャンバスに向かっていた私が、法晃さんとヒロさんに出会って、まちのなかでライブペイントをするという、屋外で絵を描くというアートを知りました。外で絵を描いていると、不思議に人が見に来てくれて、自然にまちに賑わいが生まれるということを実感したんです。その体験を通じて、絵は何に描いても地域貢献につながるんじゃないかなと思いました。家でキャンバスに向かっているのも、壁画でも、アートをするということとしては違和感がなかったというのが、今の自分につながっていると思います。
◎外へ出て、人に見てもらいながら絵を描くという新鮮な体験が、アートができる可能性を感じる出来事だったんですね。ヒロさんは以前のインタビューで「アートウォールはパブリックアートという責任がある」と話してくださったのが印象的でした。
ヒロさん/はい、そうですね。いつもそう思って取り組んでいます。もともと僕はグラフィティが好き、壁画を描きたい。もっと言えば、表現したい、絵を描くのが好きというシンプルな思いから来ているんです。壁画はいろんな人に見てもらえる。自分がいる証しというんでしょうか、存在が残せる。作品が風景のなかに残る、馴染むことができる。でも、その一方で、生み出したものが違和感となる場合もあるということを忘れずにいたいんです。
法晃さん/そうなんだ。僕はパブリックアートという意識はなかったなぁ(笑)。誰が描いてもいいけれども、たまたま自分が描いたということと思っています。もともと絵を描くことの好きな人は、自分でもいろんな場所、いろんな機会に絵を描きたいと思いがあると思う。だから今回のミールの南壁や西壁を見た人が「どうしたら描けますか?」「私も描けるんでしょうか?」と、ミールや商店街の人たちとコミュニケーションするというのが大事だと思うんです。
何て言ったらいいのかな・・・ここに描いている人たちがすごいんじゃない、ということ。アートウォールを見た人が「オレならこういうふうに描きたいな」と思ったら、すでに描いてある絵への上書きではなくて、そこに描くスペースがあればそこへ行ってお願いしてみたらいい。「街の人」と「描きたい!と言っている人」がつながっていくといいなぁというのが僕の願い。前にも話しましたが、落書きという言葉は本当に難しい。何をもって落書きというか。自分たち作家もある程度自由を与えられて描いているということでは、落書きなんじゃないかなと思うことがあります(笑)。
◎しかも落書きは良いもの?良くないもの?どういうもの?と考えるとますます難しいテーマですね。
法晃さん/問屋町のような規模のコミュニティだったら、人のつながりが基本だと思うんです。東京やそのほかの大きな都会とは違う。描きたい人が飛び込めるよう、街の人も心を開いて受け入れてくれるような、そんな人のつながりを大切にしていけたらいいですよね。
◎「人とのつながり」はミールのテーマの一つでもあります。現在、このミールの南壁を含む全長130メートルの巨壁をアートウォールにする取り組みが国からの補助金も支えにして進行中ですが、このアクションも含めて、「まち」と「アート」、「アートウォールのあるまち」について、代表してヒロさん、お願いいたします。
ヒロさん/アートがあることでまちが明るくなることはいいな、と思うんです。僕はもっと描きたいですね。今回、リアルタッチの真允子さん、コンセプチャルな縄をモチーフにした法晃さん。そして僕、と。絶対に楽しいことがあるなーと思って取り組みましたから。これをきっかけにいろんな人の作品が増えていくといいなぁと思っています。
いろんな人の絵があるから面白い。自分一人で描いていても楽しくない。もちろん、観る人にとっても変化があるといいなと思います。ただ・・・。
◎ただ?
ヒロさん/僕個人の考えとしては、自分もプロとして生きているので、どんなプロジェクトでも場所でもそうですが「このスペースに描かせてあげるから、描いてね!」という視点や発想を超えて仕事ができたらといつも願っています。もちろんケースバイケースですが、仕事料金が少なくても、たとえば多くの人が描く現場を見てくれるということなら受けたいと思います。
◎それはとても大切なお話ですね。「アート」と「まち」と「人」が楽しく明るくつながるために、ミールも大事に考えていきたいと思います。今回、西壁にも「人とのつながりを大切にしよう」というメッセージを小さく入れてくださいましたね!それに加えて絵だけでなく、文字もアートになっているのも楽しい仕掛けです!
ヒロさん/じつは壁面に設置してあるボックス部分、そこを最初は避けていたんです。みんなで背景をつけたあと、「さて、ここどうする?」ということになって。
真允子さん/最初は、鳥かごや水槽という、モチーフやボックスの形にちなんだアイデアが出たんだっけ・・・。
法晃さん/でもボックスの扉どうしの境目の黒が強調されてしまうのと、まわりが淡いグラデーションだったので、ここはパキッとした感じにしたらということになって。僕はもともと文字をつかった作品もつくっていたので、このボックスの凸部分を利用して文字をデザインすることにしたんです。
◎なるほど、そこに浮かび上がるのがミールを表す文字ですね。ぜひ実際に見て楽しんで欲しいです!(笑)
今日は楽しくて深くて、やっぱり楽しいお話をたくさんしてくださって、本当にありがとうございました!
*今回のミール西壁のアートウォールの様子をヒロさんが動画にされました。
ぜひご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=OpFYQU7wovM
*アーティストのプロフィール、アート活動などは下記ウェブサイトをご参照ください。
中島法晃さん(岐阜県本巣市出身、美術家)
新井真允子さん(岐阜県羽島市出身、画家)
https://www.instagram.com/mamimami_artwork_0303/
Madblast Hiroさん(岐阜県各務原出身、画家)
(スタッフC)
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