ウカンムリ日記
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2021 年 2 月 27 日

読んでミール?vol.9 〜冬〜

皆さま、こんにちは。

今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第9弾をお届けします。

テーマは「冬」。本当は雪の舞う時期にお届けしたかったのですが、三寒四温の時期になりました。せめて、本格的な春になる前に!とお贈りします。

今回もブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。

第9弾「読んでミール?」の始まり、はじまり。

 

Book Talker Naomi***

 

①  角幡唯介 著
「極夜行」(2018)文藝春秋

「極夜」とは「日中でも薄明か太陽が沈んだ状態が続く現象のことをいい、厳密には太陽の光が当たる限界緯度である66.6度を超える南極圏や北極圏で起こる現象(対義語は白夜)」です。

著者である探検家の角幡唯介は「極夜の世界に行けば真の闇を経験し本物の太陽を見られるのではないか」との思いで、氷点下30度台のグリーンランド北西部へのひとり旅に出ます。それは氷河を渡り氷床やツンドラ地帯を進む過酷な旅で、生死を分ける危険が常につきまとう探検です。
でもこの旅には力強い相棒がいました。40㎏近い大きな犬、ウヤミリックです。白熊対策や橇(そり)を引いてもらう力になるだけではなく、何よりも精神的な支えになり、太陽の出ない闇の中にずっといると鬱状態になる「極夜病」から救ってもくれました。
氷河が割れそうになったりブリザードにあったりと色々な危険に遭いましたが、最大のヤマ場は前もって準備していた2か所の食料等のデポ(保管場所)の1つが白熊に荒らされるというアクシデントがあった時でした。それが有ればあと2か月は休養をとりながら太陽が出る瞬間を見る事が出来るはずでした。
そこで彼はとりあえず獲物を捕まえて食料確保をしながら、何とかそこに残る努力をしてみようという選択をします。
食料が少なくなっていく中でどんどん痩せていく相棒のウヤミリック。その姿を見て自分の残り少ない食料を分け与えようかと思い、ウヤミリックが死んだらその肉を食べ自分はあと何日生きながらえる事が出来るかを考える。そんな極限状態の中で待っていたものは……。
やはり作り物ではなく実体験したものは胸に迫ってきます。私は何度も泣いてしまいました。
皆さんもこの本を読む事で究極の冬を体験してみませんか?

 

② 三浦綾子 著
「氷点」(1965)朝日新聞社、角川文庫

これは院長夫人が若い医師との逢い引きの最中に3歳の娘を通り魔に殺され、そんな妻への復讐の為に、その殺人犯の娘を養女にするという襲撃的な始まりをする余りにも有名な小説です。
丁度この本を読んだ思春期の頃、著者の三浦綾子さんと同じ北海道の旭川市に住んでいて、この養女、美しく頭も良く純粋な陽子に憧れを抱いていました。
でも半世紀を経て今の年齢になると、陽子という娘は真っ直ぐ過ぎて生きづらいだろうなと思うようになりました。
「氷点」では、実際にそういうラストを迎えますが、続編の「続氷点」で、本当の殺人犯の娘との関わりの中で成長し、陽子の心に出来た氷点は少しずつ溶けてきたのではないかと思います。
それにしても犯罪者の家族というだけで肩身の狭い思いをするのはいつの時代も同じですね。今は更にコロナに感染しただけでバッシングをうけたりもします。心の氷点が消えるような世の中になってほしいですね。
[参考]「続氷点」(1971)角川文庫

 

③ 小泉八雲 著
「雪女」(1904)偕成社、講談社、恒文社 他

日本人なら誰もが知っているこの物語はギリシャ生まれのイギリス人(後に日本に帰化)パトリック・ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が「怪談」にまとめたものです。

この作品は、私が十数年続けている朗読の発表会で2年前に扱ったもので、その時に雪女(及び雪)を私自身が演じて感じたのは、氷の様に冷たいはずの雪女は、実はとても熱い心を持っているということです。
巳之吉を好きになり、雪女の世界のタブーをおかして人間と結婚し子供を10人も作る。しかし巳之吉がうっかり雪女の事を話してしまい人間界に居られなくなった時も巳之吉を殺さず子供達を託して去っていく。
表面上は冷たく怖いイメージですが、実は愛情深く燃える様な熱い心を持っているのではないかと思います。
よく知られたお話も別の角度から読んでみるとまた違う世界が見えるのではないでしょうか?

 

Book Talker  Chie***

 

1 E・ポター著 村岡花子訳

『スウ姉さん』(2014)河出文庫

現代の私たちの暮らしと比べれば、ツッコミどころも満載ながら、自分のこと以上に誰か身近な人のために動き、働き、つねに頼られる主人公のスウ姉さんに、まわりの人物を重ねたり、自身がそうではないかと思ったり。スウ姉さんはどの時代にも、どこの国にも、どんな家族にも居る存在ではないかと、そんなことを思わせてくれる本です。

著者のポターの代表作といえば『少女ポリアンナ』(パレアナとも言われる)で、どんなに大変なことでも「喜びのゲーム」に置き換えて幸せを抱きしめるポジティブシンキングな少女のお話。ポリアンナも村岡花子が昭和初期に訳し日本に紹介したことで知られますが、同じ女性を主人公にしながらも『スウ姉さん』※(昭和7年訳出のタイトルは『姉は闘ふ』)の世界観は、人と人の交差をもっと掘り下げているように感じます。村岡花子はポリアンナ以上にスウ姉さんを紹介したかったのではないかと、世に存在する多くのスウ姉さんたちに光を当てたかったのではないかと思います。

さて、主人公のスウ姉さんはどんな人物なのでしょう。彼女はボストンに住んでいて、時代はおそらく20世紀前半。豊かな暮らしの中にいて、母亡き後、父や妹、弟に頼られっぱなし。恋人も財産家の彼女との結婚を早く早くと急ぐ。でもスウ姉さんには本当は熱望していることがありました。それは才能があるといわれたピアノで多くの人に拍手喝采を浴びるような音楽家になり、家族にとって誇らしいと思えるような存在になること。でも、彼女が羽ばたくことを家族が許しません。家族のことを一番に考えるべき存在や立場としてスウ姉さんを閉じ込めるからです。そのうえ、父の銀行が破綻し一家は財産を失い、父は精神的に幼児になってしまう。妹も弟もそんな父の姿を否定して、介護はすべてスウ姉さんに。しかも、恋人との関係も不鮮明になり、彼女はこれまでしたことのない家事に奮闘し、弟や妹のため一家の稼ぎ手となってピアノを教えるという日々に突入していくのです。

こうしてストーリーをたどってみると案外よくある物語なのかもしれません。でも、家族のためにじゃがいもの皮を剥き続ける、いくら剥いても剥いてもじゃがいもの皮が減らない、といった例えが示すように、普遍的な葛藤が描かれていて、深みがあり、物語の世界に引きつけられます。

苦しむスウ姉さんが何かを乗り越える時に現れるのが、何度も訪れる「冬」という季節のような気がして、この本を挙げました。何度も訪れる冬のあとには何度も春が来て・・・。その息吹が人の気持ちを明るくし思い直し、生き直していく力となるのかもしれません。スウ姉さんは耐えながら弾力を増しながら日々を生きる。そういう物語として大事にしていくのも素敵です!

 

2 M.B.ゴフスタイン著 末盛千枝子訳

『ピアノ調律師』(2012)現代企画室/復刻版

ピアノつながりで、私の最も好きな絵本をご紹介します。絵本といっても文字が多く、大人の読み物として本棚に置いておきたくなる本。

主人公は両親を亡くしておじいちゃんに引き取られた小さな女の子デビー。おじいちゃんの職業であるピアノ調律師の仕事に並々ならぬ興味を持ち、こころの多くをピアノ調律の作業や道具に奪われています。でもおじいちゃんは孫にはピアノ調律師よりもピアニストになってほしいと願っています。

そういうふたりがあるとき、雪道用のオーバーシューズを履いてコートを着込み、有名なピアニストのコンサート前の調律に向かいます。調律を始めてしばらくすると、おじいちゃんが孫にちょっとお使いを頼みます。そこから始まるお話がとても素敵です。まわりの大人は巻き込まれながらも、大人ならではのやさしさもそっと発揮していきます。この本を手にすると、ココアやシチュウなど湯気のあがるものを思い浮かべるのは物語の季節が冬だから?だけど、心身がほっと温まるだけではない、どこか、大切なものを大切にしつづけることの大切さを訴えるという、強さや厳かさを私は感じるのです。内なる熱と外の冷たさ。冬という季節がこの対比を描き出し、届けたいメッセージを支えているのではないかと想像しています。

 

 

3 M.B.ゴフスタイン著 谷川俊太郎訳

『ふたりの雪だるま』(1992)すえもりブックス

ゴフスタインが好きになり、彼女の作品はいくつか私にとって大切な本になりましたが、そのなかのもう一冊を冬にちなんでご紹介します。

この雪だるまの絵本は、絵が中心。言葉はとても少ないのですが、描かれた絵の中からたくさんのこころの動きが伝わってくるようです。ストーリーも素敵ですが、絵のタッチも素朴で暖かく、雪が降ったり積もったりする様子が目に見えるよう。

主人公はお姉ちゃんと弟。ふたりにとって初めての大雪が降った朝、ふたりで庭に出て雪だるまを2つ作ります。作ったのですが、どうやら、お姉ちゃんにとっては作った瞬間から雪だるまは作り物ではなくて、自分たちと同じ生きているもののように感じたのではないでしょうか。

やがて夕暮れ。家族で食事を囲んでいると、ふとお姉ちゃんは思うのです。雪だるま、どうしているかなあと。そういう誰もが経験したような気持ちの揺れや動きを、父や母が受け止めて小さな物語がつづきます。幼い弟くんの喜びもいい味わい。こんな愛しい日々に、子も親も、雪だるまも幸せを感じていてほしいと思います。

 

写真は近所の梅林公園で散歩した時のもの。やがて小さな春が見えてくるはず・・・

(スタッフN&C)

 

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