皆さま、こんにちは。オリンピックでは日々熱戦が続いていますね。メダルの色はもちろん、選手の頑張りも、目に眩しい夏です。
今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第11回をお届けします。五感につながる「一文字」テーマシリーズ!前回の「音」につづき、「色」をお届けします。今回も、ブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。
第11回「読んでミール?」の始まり、はじまり。
Book Talker Naomi***
①レオ・レオニ 著
『あおくんときいろちゃん』(1959)
至光社ブッククラブ国際版絵本
古典とも言われるこの絵本はレオ・レオニが孫たちにお話をせがまれた時に生まれた作品です。
単純な絵が小さい子供にも分かりやすく、あおときいろが合わさりみどりになるという内容は融合という深い意味で大人にも考えさせられる作品だと思います。
今回の「色」というお題で本を探した時に、同じレオ・レオニの作品でカメレオンが自分らしさを探す「じぶんだけのいろ」と迷ったのですが、単純な絵の中にも色々な感情を表現している「あおくんときいろちゃん」はやはり名作だと思いこちらを選びました。
[参考]レオ・レオニ著
「じぶんだけのいろ」(1975)好学社
②砥上裕將(とがみひろまさ) 著
『線は、僕を描く』(2019)講談社
☆第59回メフィスト賞受賞作
この作品は「水墨画」という墨の線だけで描く芸術が題材になっています。いわば黒だけの世界の作品ですが、本書をあえて選んだのは黒一色といいながら、その濃淡やさまざま技法を使って描き出す絵の奥の深さ、そしてその絵の中に色を感じ、魂を感じる内容に心惹かれたからです。
実際に私が水墨画を見てもそれを感じる事が出来るかと言えば難しいかもしれませんが、ただそういう世界があると言う事を知るきっかけとなり、今度じっくりと水墨画を見に行きたいと思いました。
③ブレイディみかこ 著
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(2019)新潮社
☆本屋大賞2019ノンフィクション本大賞受賞作
☆第73回毎日出版文化賞特別賞受賞
☆第7回ブクログ大賞(エッセイ・ノンフィクション部門)
これは英国に住むアイルランド人の父と日本人の母を持つ少年の中学校生活を、母であるブレイディみかこさんの目線を通して書かれた作品です。
題名にあるホワイトとイエローは肌の色をさしています。
肌の色については差別問題がはらんでいて、有名なところでは絶版と復刊を繰り返した「ちびくろサンボ」という絵本があり、また差別用語に繋がるということでクレヨンの「肌色」は2005年には完全に無くなり「薄橙」又は「ペールオレンジ」と呼ばれるようになりました。
肌の色や国籍、貧富の差などの色々な問題を、時に迷いながらも自分の力で解決していく息子の姿に「子供ってすごいな!」と思わされます。
親というのは心配のあまり、とかく子供に干渉したり指示を与えたりしがちですが、ブレイディみかこさんの一緒に考え悩み、最終的には子供が決めた事を認めて応援するというスタンスがとても良いと思います。
子供の持つ無限の可能性と、親としての在り方を教えてくれる作品のような気がしました。
題名の「ブルー」は日本でも正式な英語の意味でも使われる「気持ちがふさぎ込んでいる」「憂鬱」をさしているかと思いますが、最後のページで息子が、今は「ブルー」ではなく「ぼくはイエローでホワイトでときどきグリーン」と言っている言葉がとても印象的でした。
ちなみにこの「グリーン」という英語の意味には「環境問題」とか「未熟」「経験が足りない」などの意味があるそうです。
今は「グリーン」という彼がこれからどんな色に変わっていくか…いち読者としてもとても楽しみです。
Book Talker Chie***
1 堀川恵子 著
『教誨師』(2014)講談社
☆第一回城山三郎賞受賞
教誨師(きょうかいし)という言葉をご存じでしょうか。広辞苑には「教誨」の意味として(1)教えさとすこと。(2)刑務所で受刑者に対して行う徳性の育成を目的とする教育活動。宗教教誨に限らない。「――師」とあります。
本書の“教誨師”は、拘置所で死刑囚と唯一面談できる民間人として、無報酬で死刑囚と向き合う宗教者であり、その苦悩や葛藤を描いています。死刑囚と対話し、死刑囚からの問に答え、さらに刑の執行にも立ち会うという想像を絶する困難な役割を半世紀もの間続けた広島出身の浄土真宗の僧侶、渡邉普相の告白を中心に、ノンフィクション作家として名高い堀川恵子によって本書はまとめられました。
読み進めるのは恐ろしいけれども、読まなくてはいけないと駆り立てられるのは執筆者の筆力と、やはり教誨師である渡邉普相の人間力に惹かれるからだろうと思います。渡邉の没後に出版する、という渡邉との約束通り、この世に送り出されました。
「色」というテーマで思いを巡らせたときに、この本には色を感じる描写がほとんどないことに気づきました。死刑囚と語り合う拘置所の教誨室や、死刑執行の場が無彩色の世界観だからでしょうか。渡邉が時折、死刑囚たちに差し入れる靴下には、明るい気持ちになれるようにと派手な色を選ぶこともあるものの、その色が何かのアクセントになっているとは感じられません。彩りの極端な少なさが、生きるとは死ぬとはという根源的な問を鮮明にしているようにも思えるほどです。
そんななかで、まさに一瞬、色彩が走馬灯のようにイキイキと流れ出すのは、拘置所から刑場へと移送されるバスの車窓です。すこし本文を引きます。「格子越しに窓の外を見つめる山本(注:死刑囚)にも、言葉はなかった。車窓には、死刑囚に対しても、いささかの分けへだてなく穏やかな日常生活が広がっている。身体からはみだしそうな大きな赤いランドセルを背負った子どもたち、その傍らで花壇に水をやる主婦の姿、信号が変わる度、目の前をどっと横切るサラリーマンの一群。山本は、今生最後の風景をじっと目に焼き付けているようだった」。
娑婆の世界の色味をどれほど愛おしく感じただろうと思う場面です。重い内容の本ですが、いつか読んでみてください。
2 安房直子 著
『きつねの窓』『夕日の国』〜安房直子コレクションより〜
(2004)偕成社
安房直子さんは、50歳という若さでこの世を去った童話作家。幻想的で短いお話が多く、そのなかには色や香りが大切なモチーフとしてよく出てきます。
『きつねの窓』はある日、桔梗の花畑に迷い込んだ少年のお話で、彼はそこで出会ったきつねに、桔梗の花の汁で両手の親指と人差し指を青く染めてもらいます。その青く染まった4本の指をつかって菱形に窓をつくってのぞくと、会えないはずの人や光景が見えるのです。亡くなった妹や焼けてしまった家の様子に、指の窓さえ通せばまた会える。そんな喜びもつかのま、うっかりいつもの習慣で手を洗ってしまう・・。
コロナ禍のいま、うっかりではなく、すっかり手洗いが身についた私たち。でも、もしも桔梗の汁で染めた指があったなら、洗い流したとしても、温かな感触や記憶はそっと残るといいなあと思います。
『夕日の国』は、なわとびの紐にオレンジ色の液体をたらしてから飛ぶと、オレンジ色の風景が見えてきて、夕日の国へ行けるというお話です。安房直子さんのお話はあの世とこの世の境を行き来する時空旅行のようでもあり、どこか寂しさも漂うのですが、摩訶不思議な世界を素直に受け止めて、心にさーっと風を通してみたいような時には、さまざまな色がそっとその世界へ連れて行ってくれます。
もう一つ。私が一番好きなお話は『ハンカチの上の花畑』。ここでは小人にあげる小さなビーズの金色と、ハンカチの隅にある小さな刺繍のブルーが、ふたつの世界をつなぐ色として登場します。
ちなみに安房作品の紹介は「読んでミール」で2回目となりました(笑)。どうしても幼い時から好きな作家作品から離れられない私です。今回は、色のやさしさだけでなく、輝きや透明感が、安房作品の魅力を引き立てているような作品を挙げてみました。
3 山根京子著
『わさびの日本史』(2020)文一総合出版
☆第12回辻静雄食文化賞受賞
わさびが日本固有種で、日本に栽培起源があることを明らかにした研究者であり、自称「わさび応援隊長」の山根京子さん(岐阜大学准教授)による、まさにわさびづくしの一冊。栽培植物起源学という学問の道を行く山根先生は、「わさび」をテーマに、これまでに中国の奥地や日本全国300か所以上に現地調査されています。ちなみに栽培植物起源学とは山根先生の場合、現地調査、詳細なDNA分析、さらに文献や資料の研究によって、植物が野生植物から栽培植物になった場や時代、どんな民族によってなしえたかということを明らかにするのが目的。
さて、どこをとっても興味深い本書ですが、深いところは新聞各紙の書評を参考にしていただくとして、今回は「色」に注目してみましょう。わさびをイメージする色がキーカラーとなり、カバーや見返し、目次ページを彩っているのが印象的で、この色合いがわさびの世界へと入っていく扉です。そして中身に入っていくと、植物好きで歴史好き?の人にはワクワクしてくる章立てで、謎解きのような展開。巻末の歴史年表も面白く、読者も知らぬ間に、わさび愛に満ちていくという次第。わさびの魅力は香りやツンとした刺激を伴う味わい、そして清々しい色もその一つ。キーカラーが本書の濃い中身を引き立てるというのは、まさにわさびの本分ではないでしょうか!
ところで、デザイナーや印刷業の仕事に欠かせないアイテムとして、色見本というものがあります。DIC(旧社名・大日本インキ化学)の色見本「日本の伝統色」を見てみると、「山葵色(わさびいろ)DIC-N849」がちゃんとありました!私の手元にある古い色見本にはこんなコメントが添えられています。「山葵は清流にしか育たない。その根を食用に供するが、この色名が実際の色よりも青味にイメージされるのは、その育つ清らかな環境のせいか、またはその味の爽やかな辛みのせいかもしれない」。
なるほど!たしかに色見本の山葵色は青っぽいのです・・・。ちなみに『わさびの日本史』のカバー等に使われているわさび色は、この色見本で探すと「豌豆緑(えんどうみどり)DIC-N836」に近い・・・、でも、わさびを連想するのには絶妙な色味なんですよ(笑)。
(スタッフN & C)
写真はDICの色見本「日本の伝統色」。見本も本と考えると、面白い発見の宝庫です!
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