皆さま、こんにちは。
今日はミール風ブックトーク「読んでミール?」の第7弾をお届けします。
テーマは「夏」。いつもなら旅行などの計画でワクワクする夏休みを思い浮かべる頃ですが、今年は思いがけない夏となりそう。昔、「ひと夏の経験」という歌がありましたが、この夏は本をたくさん読んで、たくさんの経験をしてみてはいかがでしょう。
今回もブックトーカーふたりのこころの本棚から3冊ずつ、ご紹介します。
第7弾「読んでミール?」の始まり、はじまり。
Book Talker Naomi***
① 野坂昭如 著
「ウミガメと少年」(絵本)徳間書店
これは2001年に戦争童話集第一弾として書かれ、その後絵本やアニメ等になり、吉永小百合さんの朗読CDでも有名な作品です。6月末から8月、終戦を迎えるまでの沖縄がウミガメと少年の目を通して描かれています。
爆弾が破裂し、艦砲射撃の音や照明弾の眩しい光の中でもお構いなくウミガメは淡々と悠々と産卵をして海に帰っていきます。その自然のあるがままの姿は戦争下でも変わりません。
いま私達もコロナで非日常の生活を余儀なくされていますが、そんな中でもウグイスの声を聞いたり、川を小さな魚が泳いでいるのを見ると、自然の偉大さを思います。
空腹を抱えながらひとりぼっちでガマ(沖縄に多く見られる自然洞窟のことで、沖縄ではガマと呼ぶ)に隠れていた少年は「カメにしてやろう」と、ウミガメの卵を安全な場所に移動させて守っていたのに…。
ラストのような切ない思いを子供達に二度とさせない世の中を作ることが、私達の務めだと思いました。
絵の数々も味わいどころの一つ。たとえば表紙。ウミガメが泳ぐ海の色は限りなく優しく美しく…人間にとってもウミガメのように海で生きる生物達にとっても、平和で美しい海を守っていきたいですね。
また絵本の反対側からは「A Green Turtle and a Boy」と題した英語版になっていますので、海外の方にも読んでいただけますし、英語の勉強にもなります。
②松田悠八 著
「長良川 スタンドバイミー1950」
(2004)作品社
これは我がまち岐阜が生んだ作家、松田悠八先生がふるさと岐阜を描き2004年に第三回小島信夫文学賞を受賞した作品です。
1950年、年齢の違いや男女の違いも関係なく子供達が仲良く集団で遊んでいた懐かしい時代の岐阜。金華山や長良川などの豊かな自然の中で子供達が経験する色々な出来事には、大変な事やちょっとした冒険など沢山詰まっています。
中でも私は主人公ユーチャと同級生の女の子ユキチャにまつわる話が特に好きです。5年生の夏にユキチャが川で溺れた時に初めて女の子を意識する出来事があり、中学生になったばかりの夏には金華山に登り2人だけで上から花火を見た時の甘酸っぱい思いには心がときめきました。
この本を読んだのは10年以上も前の事ですが…今でも花火を見るたびにその情景が浮かび「いつか金華山の上から丸い花火を見てみたい」と思います。
今年は岐阜長良川の花火大会はありませんが…また花火を見ながら金華山の上にいるユーチャとユキチャに思いをはせることが出来るのを楽しみにしています。
③川上未映子 著
「夏物語」(2019)文藝春秋
これは二部構成で第一部は2008年に芥川賞をとった「乳と卵」に加筆したものです。そして第二部はその8年後の2016年から2019年までを描いたものです。
主人公の名前は「夏目夏子」。
主になる出来事は夏に多く、目次も「第一部 2008年夏」「第二部 2016年夏〜2019年夏」と夏づくしで、まさにブックトーク「夏」の為にある本!と思ったのですが、内容がとても難しく繊細で深い問題をはらんでいて「私に紹介文が書けるか?」と悩みました。でもこの本を多くの方に知っていただいたいという思いが強くなり、今回ご紹介することにしました。
まず「第一部」は夏子の姉とその娘が中心の話です。思春期の姪が生理(卵)について色々な疑問を持って悩みます。また姉は胸(乳)に強いコンプレックスを持っています。
「第二部」は、夏子は男性を好きになってもその行為は好きになれなく、一人で子供を産む可能性を探して精子バンクに行き着きます。しかしAID(精子提供)によって生まれた人の「父親が誰かわからない」という苦しみを目の当たりにして思い悩みます。
この作品は思い悩む人たちがそれぞれに自分なりの答えを見つけていく姿を描いている本なのかと思います。
その答えには賛否両論あると思いますが…大変な生い立ちや生活の中で一生懸命に前を向いて生きている姿には勇気をもらえるのではないかと思います。
皆さんに様々な考え方や生き方を知っていただければと願っています。
Book Talker Chie***
1
安房直子 著
『白いおうむの森』〜『ひぐれのお客』(2010)福音館書店に収録〜
夏目夏子さんが主人公の小説『夏物語』に続き、私からも、夏子さんが出てくるお話からご紹介します。こちらは童話で『ひぐれのお客』という本のなかの一編として収録されています。主人公の少女の名前はみずえ。彼女はインド人が経営している宝石店にたびたびやってきては、店で飼われている美しい白いおうむに、ある言葉を教え込もうとしています。その言葉とは「なつこねえさん」。今のみずえよりももっと小さい時に亡くなった姉の名前です。お店を訪れる時には飼い猫のミーという白猫も一緒です。
ところがある日、白いおうむが居なくなり、インド人に「お前の猫が食べたんだろう」と詰め寄られます。そんなことはないと思うみずえでしたが、家に帰ってみるとミーも居なくなっていることに気づいて。
宝石店で見つけた狭い入り口から地下階段を降り、そうダンジョン!に入り込んで、あの世とこの世をつなぐ迷宮のような場所でなつこねえさんと会うお話です。白い猫と白いおうむはどんな役割をするのでしょうか。
安房直子さんのお話はいつも澄んでいて、どこか寂しい。誰もが経験したことのあるような、こころの奥に潜む、透明に出会えるような気がします。挿絵は刺繍を用いたイラストで、懐かしさと素朴さが安房ワールドのワンシーンを紡ぎ出していて素敵。
2
湯本香樹実 著
『夏の庭』(1994)新潮文庫
老人と少年たちという異世代がこころを通わせていくお話です。
夏休みの冒険ならぬ、体験として、「死んだ人って見たことある?」という好奇心から一人の老人の観察を始めた少年たち。それに気づくおじいさん。ある意味、子どもは邪気がないから残酷で、大人には邪気もあるからユニークに思える設定ですが、松田悠八作『長良川 スタンドバイミー1950』のように、少年期だからもらえる経験が(言葉として与えてくれる作者の文章が)宝物のように愛おしくなります。おじいさんにとっても最高に楽しい夏を過ごせたのではないかと。
湯本さんが描く世界に引き込まれ、その深いところに漂う優しさに触れながら、「生きること」と「死にいくこと」の両方について感じ入る大切な時間をもらえるのではと思います。でも少年たちは、失われるばかりでなく、宿り、共にあることに気づく。そんなお話といったらいいでしょうか。
大人になったなら、誰もが同じようなこころの経験を持って成長したはず。時折掘り起こし、思い出してみるのもいいものです。そうすることで、まわりの人々の顔や営みや言葉、まわりの風景や自然に育まれてきたことに、こころが膨らみ、感謝したくなるような気がします・・・。湯本さんの作品『春のオルガン』『ポプラの秋』もおすすめです。
3
旭屋出版編集部 編
『かき氷 for Professional』(2019)旭屋出版
夏といえば、かき氷! 頭がキーンとなるのが苦手な人も、ひと夏に一杯は食べてみたくなるのではないでしょうか。かき氷はもはや夏限定のものでなく、「かきごおりすと」と名乗る人もいたりして、かき氷の名店は全国にいくつもあります(岐阜にもありますよ!)。冬にかき氷を食べても頭がキーンとしないためにも、専門店では氷の温度を調整するなど工夫を凝らしたかき氷を提供しているのだとか。
かき氷をテーマにした本はこれまでに何冊も出ていますが、本書は専門店を目指す人向けに作られた本で、ビジュアルブックとしてもおいしそう!食べてみたい!と欲望をかきたてる優等生。人気かきごおり店のレシピも公開されていて・・・。たとえば、こおり甘酒牛乳、安納芋カキ氷、大人限定檸檬カキ氷、白いチョコレートとフランボワーズの焼き氷、信玄氷、おぼろ豆腐のかき氷などなど。
でも、この本の魅力は写真とレシピだけではありません。氷の歴史にも丹念な取材記事が掲載されていて、冷たいおいしさに目覚めた人々の喜びを支えてきた技術や情熱に驚くばかり。氷がいかに貴重品であったかということにも気づきます。平安の世に清少納言が『枕草子』で記した言葉——「あてなるもの。(中略)削り氷にあまづら入れて、新しき金椀に入れたる」。(あてなるものとは貴重なものという意味。あまづらとは、当時の甘味料で蔓草の樹液か甘茶蔓の汁と言われています)。千年前の貴人たちの憧れであり、尊いものだった、かき氷の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。きっと心身涼やかになりますよ。
(スタッフN&C)
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